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変なクスリ……それだけでは何とも断定できないが、聞くに一般的な風邪薬とは違う。彼女の言う『まずい事件』にあたりそうなのは、すぐに分かった。
「変な薬、と言うと?」
「それ以上はわかりません。何度か会ってるパパで、いつも食事だけなのに羽振りがよくて……そういうの『神パパ』って呼ぶんですけど。とにかく、すごくいいパパだって言ってたのに、急にそんな話をしてたんです」
俺たちが食い付いたことでより事件性を感じ取ったのか、少し震える手で彼女はPUPPYの友達欄を開いた。PUPPYの大きな特徴として、パパ活をする女性同士が情報交換のために繋がってメッセージのやりとりができる点がある。
開いた相手アカウントは、【花】。アイコンは私服での肩から下の自撮りで、顔はわからない。美しい真っ直ぐな黒髪が印象的なアイコン。これだけでも嘘だろと思う。――港区在住、10代。その肩書きに、ぞくりと背筋に伝う何かを感じた。もしもその花というのが、『さくらの花』のことだったとしたら……。
「……まさか、なぁ?」
それは伊吹も同じようで、サングラスを外した目が無理矢理に弧を作っている。
気を紛らわすためか、核心に迫るためか、メッセージ画面を食い入るように見る俺たちはどこか矛盾している気がした。
『花:変なパパに当たったらすぐ帰るんだよ!』
『花:印象悪くなっちゃうとかより貞操の方が大事』
『花:実際私もやばそうな薬持たされたことあるし』
一方的に続くメッセージは、【花】の必死さが現れるようだ。
『me:薬って大丈夫なんですか!?』
『花:わかんない(笑)ホントは1袋で茶飯1回分弱くらいって言ってたけど、お試しで1粒無料ねって言われたの。いつもなんだかんだ予定プラス2くらいくれるpだから好きだったけど、もう会わない』
茶飯というのは食事やカフェ代を払ってもらうだけのデートのことを指す。伊吹の話と照らし合わせると、1袋4000円程と言ったところだろうか。
「……とりあえず、情報提供ありがとうございます。ここからは自分たちが対応しますので。名刺渡しとくから、何かあったら連絡ください」
「はい、お願いします……」
俺と伊吹の名刺を一緒にして財布にしまい、奥村は深く頭を下げた。戻れないほど、彼女はまだ足を踏み外していない。顔を上げたその表情は最初より微かに晴れやかで、まだ彼女はやり直せると、なぜか思った。
その後俺たちは、再び虚偽通報の入電を受け、犯人を追った。その背後で出回るドラッグが、アカウント【花】の言うのと同じものだということには、未だ気付かないまま。
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namida(プロフ) - みやびさん» ありがとうございます。そのワクワクを裏切らないよう善処します(><) (2020年9月15日 22時) (レス) id: 0ab56b3b00 (このIDを非表示/違反報告)
みやび(プロフ) - お話が好きで、ワクワクしながら更新を待ってます^ - ^ (2020年9月15日 21時) (レス) id: 75a1d276d4 (このIDを非表示/違反報告)
namida(プロフ) - リンスさん» ありがとうございます。あまり期待はせずお待ちください…笑 (2020年9月15日 16時) (レス) id: 0ab56b3b00 (このIDを非表示/違反報告)
リンス - 続き待ってます!! (2020年9月15日 0時) (レス) id: 8ca4368cf9 (このIDを非表示/違反報告)
namida(プロフ) - SEIさん» 嬉しいコメントありがとうございます(><)私も3ページ目なんかはサントラ『志摩一未』をイメージしていて、ドラマの世界観を壊さない小説を心がけているので嬉しいです。今後もよろしくお願いいたします(;_;) (2020年9月13日 16時) (レス) id: 0ab56b3b00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:namida | 作成日時:2020年9月8日 10時