涙を拭いて #3 (ページ7)

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今日は、海斗が退院する。あの事故の日から3ヶ月経って、漸く家に帰って来れることになった。ただ、家には両親の思い出がたくさんある。フラッシュバックを起こしてしまうかもしれないし、辛くなってしまうかもしれない。だから今日は、家まで佐久間さんがきてくれて、少し様子を見てくれることになっている。両親の荷物は、海斗が入院中に片付けた。衣服を処分するのは悲しかったけど、ずっと取っておくこともできないし、思い切って片付けることにした。もともと物が多いタイプの人たちじゃなかったから、片付けは割とすぐに終わって、思い出と、大きな家具が残った。

「いきますか」

車に乗って、病院へ向かう。外の世界が苦手な海斗だから、駐車場までの移動も時間がかかるかな。

「退院の手続きをお願いします」

精算をして、今日は阿部先生と、海斗と、3人で話をすることになっている。

「あ、如恵留くん。面談室へどうぞ〜。海斗くん準備できてるよー」

佐久間さんに呼ばれて、面談室に入ると緊張した様子の海斗が座っている。

「海斗、遅くなってごめんね」

「のえる」

ギュッと抱きしめると、落ち着いたように息を吐いた。

「今日は金曜日だから、今日と、明日と、明後日はお家でゆっくりしてね。お買い物とか、いけそうだったらもちろん行ってもいいよ。でも、無理しないでね」

「はい」

「月曜日から金曜日は、午前中プログラムに参加して、午後はデイでゆっくり過ごそうね。学校のことは、まだ考えなくていいから、まずは生活のリズムを整えよう」

先日の阿部先生との面談で、今の精神状態を考えると、中学校の教室に戻ることは難しいかもしれない、と言われた。僕自身も、それならそれでいいと思うし、高校を選ぶときに、海斗に合うところが見つかればいいなと思う。職場にも相談して、フレックスや在宅勤務を上手に活用して、家のこと仕事を両立できるようになんとなく目処が立った。

「熱が出たりしたらお休みになるけど、なるべく毎日来ようね。来て調子が悪かったら、プログラムには行かないで、看護師さんとデイでゆっくりしよう」

海斗が社会に戻っていくための第一歩。まずは、安心できる場所に、コンスタントに通うこと。入院中もプログラムに参加していたけど、週に1か2日は行けない日があった。