涙を拭いて #3 (ページ31)

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Noel

ぎゅうぎゅうと額を押し付ける海斗の背中をさすりながら、ひとつ、違和感に気づいた。海斗が、家に帰りたいと言わなくなった。昨日までは、早く退院したい、学校に行きたいと言っていたのに、今日は外を思わせる言葉が、ひとつも出てこない。

「海斗くん、夜ご飯です。付添食も今持ってきますね」

暫くすると夕食が届いて、あまり箸の進まない海斗に夕飯を食べさせる。

「ほら、海斗。たまご豆腐だよ」

手が動かないから口に運んで、少しづつ食べさせる。食事に対する意欲も、昨日より低い気がする。

「海斗、調子悪い？」

そう聞くと首を横に振る。でも、薬のせいでぼんやりとしていた瞳から、ボロボロと涙がこぼれてきた。やっぱり、辛かったんだよね。

「辛かったんだね」

「ごめ、なさ、、」

「謝ることないよ」

「おそと、、、いけない、」

食事のトレーをよけて、海斗の小さい体を抱きしめる。

「行けなかったか」

「下、降りたら、、車の音とか、外の音、怖くて」

「うん」

「でも、、お外行けないから、、帰れない、、車、こわい、、のえる、、じ、、事故に遭ったら、、ど、しよ、、のえるが、、」

段々混乱してきたので、ナースコールをかける。海斗は僕の腕の中で、一生懸命言葉を紡いでいるけど、内容は本当にあった出来事と、海斗の想像と、海斗が本当のことか想像かわからないいことが繰り返されていて、とても正常、とは言い難い状態だった。

「失礼しまーす。辛くなっちゃった？」

コールをすると佐久間さんが来てくれて、僕自身も少し安心する。

「はい、、食事もあまり取れなかったんですけど、外に行けなかったことが引っかかってるみたいで」

「そっかそっか。不安がいっぱいになっちゃったかな。かいとー、さっくん来たよ。辛くなっちゃったねぇ。いっかいお布団ごろんってして、身体の力抜こうか」

佐久間さんの言葉に従って、海斗をベッドに倒す。ゆっくり身体を離すと、海斗は弾かれたように起き上がって、僕にしがみついた。

「や、、のえ、のえる、、行かないで、、」

「行かないよ、大丈夫だから」

「や、だめ、なの、のえる、、」

パニックになってしまった海斗をもう一度抱き直して、佐久間さんを見る。

「お薬飲もうか。今日はあんまり効きが良くないんだけど、海斗がしんどくないのが1番だからね」

薬持ってくるね、といって病室を出た佐久間さんを見送って、不安定に僕の服を握りしめる海斗の背中を摩る。