・ ページ16
・
そう言うと松田くんはにっこり笑って、手を振って教室に戻っていった。松田くんは学習や理解の面で少しゆっくりなところがある。中学校の時は少し周りとペースが合わなくて大変なこともあったみたいだけど、ご両親がとてもよく理解して接しているようで、本人はとても優しく、真っ直ぐ育っている。走らないよーと声をかけて、保健室に戻る。ベンチでは、宮近くんがまだ涙を流していた。
「ちょっと、1人になろうか。相談室空いてるから、使っていいよ。何か伝えたいことがあったら、メモに書いて教えてね。先生こっちにいるね」
ドアを開けて、相談室のソファーに座らせる。場面緘黙症の宮近くんは、辛い時に話しかけても、話さなきゃと思ってしまってもさらに辛くなってしまうので、落ち着くまでは、1人になれる所を用意してあげた方がいい。
そのまま少し事務仕事をしていると、職員室から内線が入る。
「はい、保健室七五三掛です」
『七五三掛先生、松倉海斗くんのお兄さんから折り返しのお電話です』
「わかりました、繋いでください」
少し待つと、通話が切り替わって、松倉くんのお兄さんの声が聞こえる。
『松倉海斗の兄です。すみません、電話に出られなくて』
「お兄さん、折り返しありがとうございます。あの、海斗くんなのですが、ちょっと学校では対応しきれない状態になってしまったので、かかりつけの病院に迎えにきてもらいました。カウンセラーの吉澤が付き添っているのですが、まだ学校にも連絡は入っていません」
『え、、？』
「すみません、お兄さんに先にお伺いするべきだと思ったのですが、かかりつけの先生にご相談した所、すぐに行きますとのことで」
『あの、ありがとうございます、、何があったんでしょうか』
「今日は授業にずっと参加していて、その時間は体育をやっていたんです。少し疲れていた、とクラスの生徒からは聞いていますが、最後まで授業には参加しました。ただ、その時に丁度校庭から見える交差点で事故があって、その一部始終を見てしまったんです。大きな事故ではなかったのですが、フラッシュバックしてしまったようで、、かなり、混乱してしまいました。転んで怪我もしてしまって、、」
お兄さんが、涙を堪えているのが電話越しに分かる。最近調子が良かったから、余計に辛いと思う。
『わかりました、ありがとうございます、、とにかく、病院に向かいます』
「吉澤に伝えておきます。お気をつけて」
『ありがとうございます』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 180人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イカ | 作成日時：2022年8月28日 23時
