事件 人間椅子 其の三 ページ9
藤「あ、あの人は、確かに容貌こそ悲惨極まりないものだったかもしれません。ですけど、仕事、つまるところ自分が作る椅子に対しては、この上ない愛情がありました。本当に。私もあの人のことはよくよく知らないのです。でも、この椅子が完成したとき、なんだかとても哀しそうな、顔をしてました。」
一通りの話が終わるとA はまた、静かに目を細めた。
『彼は、自 殺です。』
江「根拠は?情の心だけじゃ法は裁けない。」
『彼が残念そうな顔をしたのは、この椅子が、
出来すぎたからです。誰にも受け渡すことが、
それが大変惜しく感じられたからです。彼は生まれつき恵まれない容貌の持ち主だったのですよね。故に椅子は彼の芸術だった。こうしてしまえば、この椅子がどこか遠くへ行ってしまうと云う心配も、何もかも、なかったことになる。彼はこの椅子を、何よりも愛した。それ故の、自 殺。』
その沈黙は、彼女の空間を、いつまでも支配し続けた。
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乱歩 side_____
僕は彼女が好きなのだろうか。
あの覗けない瞳と心が。
時折見せるあの哀愁に満ちた顔が。
そのくせ僕は彼女について何一つだって知らない。
江「ねぇ、君って、前まで仕事とかしてたの」
だから質問した。
きっと誰かしら聴いている事だと思うから、大丈夫。
『…してましたよ。』
江「なんの?」
『…いい風に云えば、企業勤めです。』
江「そうなんだ、、、」
まただ。
哀しげな表情になった。
目を細めて、肩を落とした。
もっと他にも聞きたかったが、もう会話は続かないような気がした。
ガッタンゴットン、列車は揺れる。
その車両には、二人の影以外、見ることができない。
ガッタンゴットン、列車は揺れる。
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今回の《人間椅子 其の一〜其の三》は乱歩先生の《人間椅子》が元になっています。
気になった方はぜひ読んでみて下さい!!
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マルフォイ - まず、ページを開けて下さったことにありがとうございます。これからも頑張っていくつもりなので、何卒最後までお付き合いください!! (2019年7月5日 22時) (レス) id: b79a2a39e4 (このIDを非表示/違反報告)
魔乃 - さっすがですね!とてもよかったです!更新お願いします!応援しています! (2019年7月4日 23時) (レス) id: 42385bad72 (このIDを非表示/違反報告)
マルフォイ - ありがとうございます!今度からの更新は「運命論者の或る否劇 其の一」で更新を続けていくつもりなので、そちらの方も宜しくお願いします! (2019年6月5日 22時) (レス) id: bae9fea7d4 (このIDを非表示/違反報告)
カゲロウ(白ヰ迷ヰ戌)(プロフ) - 好きです!(唐突)面白かったです!更新頑張ってください! (2019年6月1日 16時) (レス) id: 26ee7c4c14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:丸ノ内マルフォイ | 作成日時:2019年5月30日 23時