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「私、劇場なんて初めて行ったの」
隣に並ぶ少女の顔色はすっかり良くなっていた。
歩く度に、結われた山桃色の髪が揺れている。
『観光？』
「え？」
『や、この国はそういうお客さん多いからさ』
「……そ、そう！観光しに来たのよ」
彼女は少し狼狽えた様子でそう答えた。
自分はそれに気づかなかったワケではないが、敢えて深く追求しようとも思わず。
どうせ今後、話すこともなさそうだし。
『にしてもこんな遅くに1人は危険よ？
地元ならまだしも、旅行先なら尚更ね』
「……家族のみんな、怒ってるかな」
しょんぼりと項垂れる少女の顔を見て、自分は指で頬を掻く。
ありゃ、ワケありだったりするんかこの子？
さっきも1人で劇場に来てたし、家族とはぐれたってよりかは1人で飛び出してきたって感じ？
もぉ〜泣いたりとかしないでよ。
他所の子供あやすのなんて分野外なんだから！
仕方ない。ここは1つ爆笑間違いなしの初お披露目ギャグを……
「私ね、実は最近全然笑えてなかったの。
友達もいないし……家族だけが私の味方だったから。
だから芸人さん、今日はありがとう。
お話、本ッ当に面白かった！」
『！』
(笑ってる)
強い子だ。直感的にそう思った。
まだ小さいであろうに、向けられたその瞳はどこか大人びていたから。
……ま、笑わせられたなら良いか。
やっぱ自分笑いの才能あるんだな〜
『そりゃーどうも！
また笑い不足になったらいつでも観に来なね。
笑いは心の栄養、いくら摂っても
「ふふ、うん！
……あ！」
"お姉ちゃんだ！"と遠くを見て大きな声を出す少女に、別れの時を悟る。
ふー……これで子守タイムは終了だ。
「それじゃ芸人さん、またね！」
『ん。気をつけてぇ』
彼女は元気良くこちらに手を振った後、駆け出していった。
これにて一件落着か。
"お姉さん"らしき人物と抱きしめ合う少女の姿を確認すると、自分は静かに来た道を戻るのだった。
スクーターを引きながら自宅へ向かう。
何となく夜空を見上げると、そこには雲が1つもないことに気づいた。
『星ごっつ綺麗ー……』
感想がつい口から漏れ出てしまう。
でもそれほどまでに、この日の夜は星が綺麗だったのだ。
自分は彼女の"星"になれたのだろうか。
路地裏で彼女を生かしたのは果たして正解だったのか。
(……明日、報酬金受け取りに行かないと)
月夜に見守られ、自分はスクーターを押しつつ歩みを速めた。
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なめこ(プロフ) - 橋本アリィちゃんさん» コメントありがとうございます！こちらも思いつき次第更新していきますので、今後ともよろしくお願いします！ (2022年9月10日 17時) (
レス) id: 1b44704fa6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - とても面白かったです！もし続編があるのなら、続きを楽しみにして待っています！(*´ω｀*) (2022年1月5日 12時) (レス) @page20 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なめこ | 作成日時：2020年10月30日 19時
