岩本さんは、気づいてくれない。【黄】

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「いいのかな？ 先輩に悪いような」

「いいんじゃない。もう着ないって言ってたし」

「そ、そうなんだ」



じゃあ、少しだけお借りします！


着替える間、照は廊下に出てくれていて、カーテンを締めて佐久間先輩に借りたスーツを脱いで、ブルーのドレスに足を通した。


深澤先輩の彼女さんは私より低いけど、もともと長めの作りらしくてなんとか着ることができた。



「うわぁ、ふわふわだぁ」


可愛い。

こんな素敵なドレス着られるとは思ってなかった。



「もういい？」

「いいよー」



ドアを開けて入ってきた照。
見られるのは少し、いやかなり恥ずかしい。



「似合ってんじゃん」

「あ、ありがとう。でもあれだね、髪短いし、胸のとこもブカブカで、やっぱりこれじゃあ女装してるみたい、だね(笑)」



先輩の彼女さん、ほんとスタイル良いんだってしみじみ思うよ。




「はあ、ほんとお前は。なんでそうやって卑屈なの？ 自分で自分を認めてやらねぇと可哀想じゃん」

「っ、だって、」




ドレスをグッと掴んでうつ向く私の視界に、コツ…と照の革靴が入り込む。




「普通に綺麗だから、自信もてよ」

「………うっ、」



ポンポンと、幾度か重くなった頭。

ああ、もう、ほんとに。

照は、私のことを喜ばす天才かも。




「うーんじゃあ、1曲踊ってもらえますか？」



そう言って手を差し伸べられた。



「うっわ、これ俺のキャラじゃなくね？(笑)」




照れるならやらなきゃいいのに。



「ぷっ。ははっ、どっちかというと深澤先輩がやりそうだね(笑)」

「だね。で、どうする？ せっかくなら踊っとくか？」

「……うん、じゃあせっかくなので」




にっと笑ってポケットからスマホを取り出すと、テストに使われた曲をそのまま流し始める。


照の手が私の手を取り、身体が密着する。


夕日の入り込んだ教室で、初めて私は女の子になれた気がした。







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