岩本さんは、気づいてくれない。【黄】

相談そっちのけ ページ36

・





「いやもうそれは、素直に飛び込んでまおうや？なあ、舘も思うやろ？」



バイト中、このタイ料理屋では恒例になりつつある定員の相談会という名の夕食中。

夜のバイトにつくと賄いがついて、お客さんが居ない時か閉店後に店長の向井さんや、時々そのお友達も一緒に余った食材で作った料理を食べる。

今日はどうやら私の話を聞いてくれるようだ。




「そうだね。相手も好きで、あなたも好きなんでしょ？ だったら迷うこと何もないと思うけど。あ、ワイン呑む？」


この紳士な振る舞いの舘と呼ばれた彼は宮舘さんと言って、近所で洋風のお店を営んで居ます。

今日はこの後店長含めて飲みに行くようで、それまで時間があるからと居座っていた。



「じゃあお言葉に甘えて。でもなんか怖くて、」

「何が怖いんよ？ てかな、ここ俺の店や。持ち込み禁止やで！」



その前にこの後飲みに行くのに、何故ワイン持参しているのだろうか。




「じゃあ康二は飲まなくていいよ。もしかして、その彼と釣り合わないとか思ってるの？」


コルクを抜いて、グラスにトポトポと赤いワインが注がれるのを見つめる。

これは今夜も酔いそうだな。



「うっ、だってある意味トラウマなんです」




いただきます。と、乾杯する私たちの隣から店長。



「飲むがな！ トラウマねぇ、こういう時は阿部ちゃんに助言してもらおか。ほな阿部ちゃんセンセよろしゅう」

「え、先生なんですか？」

「いや違います！もう、向井！ 勝手に巻き込まないでくれよ！」

「あははっ！ 阿部くんキレたら怖いよ〜」



唯一残っていたお客さんの頭の良さそうな男性と、モデル並みに綺麗な男性がこちらを向いて話に入ってきた。

お客さんとしての認識はあったけれど、まさか深く話せる仲とは知らなかったなぁ。





「ど、どうも、こんばんは」

「こんばんは。て、一応こういう感じでは初めましてなのでご挨拶を。阿部亮平と言います、それでこっちが」

「目黒蓮です」

「浅間Aです」



なんだろこれ(笑)。



「あのさ、話聞いてたんだけど、それってもう君が飛び込んで行けば話纏まっちゃうやつだよね」


目黒さんが立ち上がって私たちの座っていたカウンター席に腰掛けた。

宮舘さんの持ってきたワインをちゃっかり貰っている。





.

2→←2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す