岩本さんは、気づいてくれない。【黄】

少し寂しい季節 ページ11

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また１つ季節が過ぎようとしている。


去年の今頃は、深澤先輩たちをこの桜並木の下見送った。

今年の桜は去年と違い満開にはなっていなくて、まるで完璧になれないグズグズな私と同じだねって。

でもこの桜はいつかは満開になり、見る人の心を奪うわけで、私は、




「おーいA、なにやってんの？」

「ん？ いや、もうこの坂道も上ることないんだなーって」

「ああ、だな。ここ結構良い運動になるんだよな」



よく2人で何往復もしたっけ。

1年目2年目とは私の方が体力があったのに、3年目ともなると照の方がバテなくなっていたっけ。




『ほら見てみ？この筋肉。この上腕二頭筋が……』

『もう筋肉の話は分かったから、ほら勉強するよー』



懐かしいな、と瞼を閉じて空気を吸い込んだ。


どかっと肩に乗る照の腕に体がよろめく。





「A、卒業おめでとう！」




このくしゃくしゃの笑顔を見続けてきた。

可愛いなあ、とか時にかっこいいなあって。


去年の春、私は自分の気持ちに蓋をする事を決めて、それからもずっと照とこうして友達でいる。


女であることよりも、この友情が、照との距離が遠く離れてしまうことの方が怖かったから。




「照も、卒業おめでとう！」




そしてこれからもきっと私は自分を偽って、照の隣で笑ってるんだろう。



私は、この桜のようにはなれない。

美しき咲き誇る、この桜のようには＿＿＿＿＿









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「で、お前は何もやんねぇの？ せっかく受験勉強漬けの毎日から解放されたっつうのに」

「うん。バイト増やそうと思ってて」



講義前の教室で、照は納得がいかないと唇を尖らせていた。

ほらほらそんな顔見せないの。可愛いから。



「Aはさ、なんでそんなにバイトすんの？」

「それは、」



高校の時からしているバイトに加えてもう１つ増やす予定の私に、そういえばなんで？と今更な質問。

理由は単純。



「早く家を出たくて」



「はーい、始めます」と先生が入ってきても、照はだらんと腰掛けたまま。



「やっばり居心地悪いの？」


ノートを広げ、カチカチとシャーペンの芯を出しながら小さく笑う。


「まあ。私は居ても居なくても良いみたいだし。だったらさっさと家を出ようかなって」




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