【d!】黎明、夜明けを待つ。 (ページ10)

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ボールペンは見つけたが、使えそうな紙がない。紙が無いわけでは無いのだが、多分使ったら怒られる書類とかカルテしか見当たらない。これもう直接会いに行って話した方が早い。着く頃には声帯治ってるでしょ。

「あと一分して来なかったら斬る」

　ブチギレてますがカルシウム足りてます？声出ない怪我人に斬るは鬼畜にも程がある。この建物の構造を知らない人間にどうしろと言うのか。一分で何が出来るとお思いですか。命乞いでもしろと？ど畜生が。

　なんならもう逃げればいいのでは？構造は知らなくとも外を目指して走る事ぐらいなら可能だ。この医務室らしき部屋だって、窓が一つしかないなんて事はない。刀を携えた彼に見つからずに飛び降りる事もできる。バイト先に身バレしたのはしょうがない。飛ぶしか無いが悪いのはバイトリーダー。許せ責任者。

「……あと二十秒だよ」

　それだけあるなら充分。先程見た景色に使われていなそうな門があった。迷いさえしなければ三分以内に脱出できそうだ。彼の脚力に賭けるしか無いが、ここにいても斬られるだけならば少しでも足掻いてみせよう。それで逃げれたなら万々歳。

　私の血で赤く染まったシーツを窓の欄間に付いていた突起に引っかける。簡易ロープの完成である。かなり脆そうに見えるがまあ大丈夫だろう。使うのなんて一瞬だ。

「あと十秒……そろそろだけど、何をしているのかな」

　優しそうな口調だが、殺気を当てられているのは分かる。それなりに肝が据わっている人間か相当の鈍感でなければまともに動けない。怪我人に向けるなそんなもの。

　欄間に両足をかけ、片手でシーツを掴んだその時だった。部屋の扉が開けられた音がした。一人分の足音がこちらは向かって歩いている。やばい、早く逃げなくては。

「あと五秒。いい度胸してるね」

　彼の声に気づいた足音の人間は足を止めて「ひとらん？」と呟いた。彼の名前、もしくはあだ名だろう。名前を呼ばれた方も気付いたのか、今度は「ペ神？なんで」と言い返した。今、どちらもこちらから意識が離れている。

　逃げるなら今しかない。意識が向いていない今、逃げ切れる可能性が高い選択を選ばないなんて出来るわけがない。今度こそ、と両手でシーツを強く掴む。音を立てないように足を欄間から外し、壁に爪先をつけて安定させた。