00:07 ページ8
side.pe
彼女には見覚えがあった。実際会ったことがあるわけでは無く、チーノが通っている大学のサイトの写真に映っていた気がする。この国で白髪なんて珍しい、となんとなく覚えていた。白髪の青眼はブーゲンビリアの証と言われている位だから、国民にも白髪はいなかったはずだ。まさか、なんて考えてはいたが、その日の夜の酒で忘れていた。調べてみようか、なんて考えていたら軍の関係者駐車場まで着いた。
兄さんが降りて、後部座席のドアを開けた。彼女を上着ごと抱き上げる。自分も降りて、車の鍵を閉めた。
それにしても、綺麗な顔をしていると思った。好みかどうかは置いといて、誰もが美人と答えそうだなと思うくらい整っている。顔色も少しばかり良くなって、白い肌は人間味を帯びている。白い長髪も絡まる事を知らなそうな程、何の癖もなく真っ直ぐ伸びている。なんとも形容し難い容姿だが、息が聞こえない様は人形の様だと思った。
「今日はもう起きないだろうね」
「出血多量やもんなあ、医務室の輸血パックで足りるか？」
「まだこの子の血液型分からないからなあ、なんとも」
「足りんかったら言ってくれ、すぐ持ってくるわ」
その時はよろしく、なんて答えたが。彼女の血液型が珍しく無いことを祈る。軍の兵士が珍しい血液型だった時は大変だった。休日返上で国中を走り回ってやっと丁度足りた位だ、もうあんな事はしたくない。
普段は幹部のみ使用可能の階段を使って医務室へ向かう。途中で他の幹部と会うこともなく医務室の前まで着いた。少し薬品の匂いがするこの部屋の一番奥に彼女を寝かせると、備え付けの電話から音が鳴った。電話は兄さんが取ってくれた。すぐに電話を切られたのか、溜め息をついてからこちらを向く。
「グルッペンからや。今すぐ総統室来いって」
「ああ、うん、分かった」
「そいつは大丈夫か？」
「まあ、出血も収まったから。少しなら大丈夫」
兄さんは心配そうに彼女を見ていたが、自分が大丈夫だと答えると、小さく返事をして踵を返した。彼のストールが靡くのを見て、自分の服装を確認した。
今の自分の格好はいい物じゃない。血で染まったズボン、破ったのが丸分かりなシャツ、出血部を抑える時に指についた血。事件の匂いしかしないが……今から着替える時間もない。しょうがない、これで行くしかない。何か聞かれたら答えれば良い。そう考えて、自分も医務室を後にした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 81人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：生茶 | 作成日時：2023年10月29日 1時
