【d!】黎明、夜明けを待つ。 (ページ12)

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語りかけてくんなド畜生男。氷漬けにしてやろうか……良いかもしれない。体も回復してきた頃だ、多少能力を使ったところで疲れたりはしないだろう。指先に力を入れる…………よし、問題無いみたいだ。足元だけ凍らせておけば時間稼ぎになる。

　わざと音を鳴らしてこちらに気づかせる。あまりわざとらしいと疑われるので、服が擦れる音にした。彼も既に気づいていたんだろう、言葉も発さずに近づいてくる。

「何か企んでいると思った。どうするつもりかな」

　彼の間合いに入るのが一番手っ取り早いが……あの刀が厄介だ。こちらではあまり見ない得物だ、確か極東の国由来だったな。文献では見た事があるが、本物は初めて見た。美術品として扱われているものという認識だったので実戦として使っているのは意外だ。彼からしたら普通なんだろうな。

　こちらへ一歩ずつ確かに歩いている音が聞こえる。私と彼の間はもう五メートルも無い。改めて指先に力を込め、冷気が漂うのが感じられる。ここで決めなければ、もうチャンスは無くなる。幸運も長くは続かないのだ。

　こちらから攻撃を仕掛ける。正当防衛だなんだという言い訳が出来無くなるのはもうこの際どうでもいい。逃げ切れば勝ちである。

　力を解き放つと、彼の足元目掛けて氷が生成されていく。そちらを見ると、片足の膝上まで凍っているのが見えた。氷漬けは予想外だったらしい。冷静に見えた彼が焦っている。

「っはあ！？」

　ざまあみろ、なんて小声で言ってみたがいい気分ではない。顔バレしたのは痛い。この国にいる限り、しばらく終われる身になる。マジであのバイトリーダー許さん。見つけたらはっ倒してやるわ。

　彼を横目に私は立ち上がった。同時に、膝上の氷が割れたのも見えた。刀でヒビを入れている、全て破壊するのも時間の問題だろう。立ち尽くしていてはいけない。今度は反対側を目指す。人と遭遇する確率は上がるだろうが、一人にバレたら全員にバレたと同義である。ゴキブリと一緒。

　決して軽快とは言えない足取りで彼の横を走り抜ける。その時、彼の黒目と目が合った。黒髪黒目は極東出身に多いと聞く。私の知り合いにも極東出身の人間がいる。彼女も黒髪黒目だった。