scene117 この涙を拭って�� ページ33
意を決してあの日の事を彼に話した。少し声が震えた。
顔を上げたら彼は一瞬驚いた表情をしたあと、下唇を噛んで、悔しそうな、悲しそうな顔になった。
「マサは違うって、大丈夫ってわかってるんだけど、ちょっと怖いの…男の人が」
「うん、…ごめん、思い出させた」
「ううん。…頭でわかってても、ダメかもしれない。マサの事振り払っちゃうかもしれない」
彼は綺麗な瞳をゆっくりと閉じて、深呼吸のように深いため息をひとつついた。
「俺、Aの事ずっと考えてた。Aがいないと飯うまくないし、夜も寂しくて、バレーも上手くいかない。Aがいないと、なんか全部ダメで…」
普段こうゆう事に対しては言葉少ない彼が、小さな声でひとつひとつ丁寧に紡いでいく。聞き逃すまいと、目を閉じた。
「近くにいるのに、遠くて、Aに会いたいってどんどん膨らんで…」
彼の言葉が止まったから、目を開けた。
いつも凛としている彼の瞳から一筋頬に伝う。気付いたら一歩二歩足が動いた。いつもマサがしてくれるみたいに、指でそれを掬う。
彼は「ありがと」と笑う。
彼が泣いて、でも笑ってくれて、胸がギュッと苦しくなって、喉の奥が熱くなる。
私も、マサに会いたいってずっと心が叫んでた。でも身体が拒否してしまうかもしれないと思うと、怖かった。
「指輪、つけてくれてるんだな」
頬に触れた左手に彼は視線を落とした。
ずっと外せなかった指輪。あの日から、バレーの時もずっとつけていた。
「だって、私はマサのお姫様なんでしょ？」
「Aっ…、抱きしめて、いい？」
一瞬身体が強張る。でもこれを乗り越えなきゃ…
小さく深呼吸して、頷いて目を閉じた。
「…嫌だったら、つきとばせばいいよ。」そっと、ゆっくり彼の手が背中に回る。
たったの数週間なのに、ひどく久しぶりに感じる匂い。腕の感覚。彼の体温。その全てが私を支配していた恐怖や緊張や戸惑いを溶かしていくようで。
「ずっとこうしたかった…」
「マサ…」
「もう、俺から離れないで…」
くぐもった声で呟くと、彼の腕に少し力が入った。少し震える肩を鼻先で感じて、私も彼の背中に腕を回した。
初めて抱きしめあった日の事を思い出した。私も泣きそうになる。
言葉も無く、ただ抱きしめてどれ位だっただろう。彼の腕が緩まり、顔が見える距離まで離れた体。
「A…帰ろう」
戸惑い無く私はコクリと頷いた。
マサ、こんな私を迎えに来てくれてありがとう。
scene118 初めて触れた日のようで�、�←scene116 この涙を拭って��
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アキ(プロフ) - jp0b1qさん» コメント有難うございます！だらだら長くて、楽しんで頂けているのかな？と不安になりながらも続けていたので、そう言って頂いて本当に嬉しく、力になります！読むの疲れてしまうと思いますが、ぜひ最新話までよろしくお願いします！ (2017年6月25日 0時) (
レス) id: 5a1b3de531 (このIDを非表示/違反報告)
jp0b1q(プロフ) - はじめまして！キラキラ楽しませていただいております！姫ちゃんの決断に涙が(´;ω;｀)これだけの長編、大変だと思いますが、ぜひ、もっと続けていただきたいです！ (2017年6月23日 10時) (レス) id: 8ef0863dfa (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - みずきさん» 続き更新しましたっ！切ない展開になってしまいました(´；ω；`) まだまだ、2人を追いかけます！ (2016年10月19日 21時) (レス) id: 0fb2687632 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - AZUSAさん» コメントありがとうございます！二人には恋愛と同じくらい大事なものがある！二人の物語はまだ続きます！ (2016年10月19日 20時) (レス) id: 0fb2687632 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - さりーさん» コメントありがとうございます！！続き更新しましたのでぜひぜひ！また感想あればお願いします！ (2016年10月19日 20時) (レス) id: 0fb2687632 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アキ | 作成日時：2016年8月7日 20時
