省エネ主義が二人。〈氷菓〉〈折木奉太郎〉 (ページ6)

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Aside

『そういえば、えるちゃんはなんでこの部屋に入れたの？』

千反田「鍵がかかってなかったからです」

「どなたかはいらっしゃるものと思っていましたから、鍵を用意してこなかったんです」

奉太郎「でも俺たちが来たときは閉まっていた。そうだよなA」

『うん』

なんの気になしにそう言ったのが、まずかった。

その一言でえるちゃんの目つきが変わった。

まっすぐで強い視線。

気のせいか、瞳孔が大きくなったようにさえ思える。

ぎょっとした私たちをよそに、えるちゃんはゆっくりと訊き直した。

千反田「閉まってたって、お二人が入ってきたときに、そこのドアがですか？」

私たちは戸惑いながらもその問いに頷いた。

えるちゃんは意識してか無意識にか、つ、と一歩前に進み出る。

千反田「ということは、わたしは閉じ込められていた、ってことですね」

『鍵はえるちゃんがかけたのでは？内側から』

しかしえるちゃんは首を横に振って、はっきりとした否定を示した。

千反田「そんなことはしていません」

奉太郎「キーは現にここにある。お前以外に誰がロックできるんだ」

千反田「・・・」

奉太郎「まあ、度忘れってのはよくあることさ」

するとえるちゃんはすっと腕を上げて、私たちの後ろを指さした。

千反田「ところでそちらはお友達ですか？」

振り向けば、ドアが微妙に開いてその隙間から詰襟の黒が覗いている。

いつだって笑っているような、ブラウンがかったその目には見覚えがあった。

『里志、盗み聞きとは趣味が悪いわね』

里志「やあごめん、盗み聞きのつもりはなかったんだけど」

奉太郎「つもりじゃないだろう」

『でも、里志帰ったんじゃなかったの？』

里志「そうは言ってもさ。お互いとしか話さない二人が夕暮迫る学校の特別教室で女の子と差し向ってるから」

千反田「Aさん、こちらは？」

いささかの警戒心を滲ませてえるちゃんは訊いてきた。

『彼は福部里志。似非粋人よ』

千反田「えせ？」

最高に適切な紹介に里志も上機嫌だ。

里志「はは、A、うまい紹介をするね」

「はじめまして、ええと」

千反田「千反田えるです」

里志「ちっ、千反田さん？千反田って、あの千反田ですか？」

奉太郎「どうかしたのか？」

そう言う奉太郎の横で私も首を傾げる。