省エネ主義が二人。〈氷菓〉〈折木奉太郎〉 (ページ5)

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奉太郎side

奉太郎「それで千反田さん。この地学準備室になんの用で？」

と訊くと、すぐに答えが返ってきた。

千反田「古典部に入ったので、ご挨拶に伺ったんです」

古典部に入った。

入部者。

その瞬間の俺の気持ちを察してほしい。

千反田さんが入部するなら、学校でのAとの幸せ空間は潰え姉貴への義理は果たされることになる。

俺とAが古典部に入る理由は何もなかったのだ。

俺の心の内で溜息をついた。

無駄足にしたくないという意識があったのだろうか、Aは訊いた。

『どうして古典部に？』

千反田「はい、一身上の都合がありまして」

「お二人は」

奉太郎「いや、部員がいるなら大いに結構」

奉太郎「じゃ、俺はこれで」

奉太郎がドアに向かっていくとAは後ろから付いてくる。

かわいい・・・！

俺が扉に手を掛けるとAが口を開く。

『えっと、千反田さん』

千反田「えるでいいですよ！Aさん！」

『・・・』

そう言われAはすこし戸惑った顔を見せる。

奉太郎「呼んでやってもいいんじゃないか？」

『・・・うん』

『えっと、えるちゃん』

千反田「はい！」

『戸締まり頼むわね』

『行きましょう、奉太郎』

そのまま教室を出る。

否、出ようとしたところで、俺たちは千反田の鋭い声に呼び止められた。

千反田「待ってください！」

振り返ると千反田は、到底考えられないことを告げられたかのように、きょとんとしていた。

千反田「わたし、戸締まりできませんよ」

『？』

千反田「だって鍵を持っていませんから」

ああ、そうか。

キーはAが持っているのだ。

奉太郎「A、鍵持ってるだろ？」

『・・・あ、そっか』

Aは自分のポケットからキーを出し、それを指先にひっかけた。

『えるちゃんに任せるわね』

千反田は答えなかった。

Aの指先でぶらりと揺れるキーをじっと見て、やがて首を傾ける。

千反田「どうしてAさんがそれを持っているんですか？」

奉太郎「鍵が無ければ、鍵のかかった教室には入れないからな。」

『そういえば、えるちゃんはなんでこの部屋に入れたの？』