７ ページ8
「俺たちはなんだって出来るよ。俺たちだけでもさ」
俺もまっすぐに剛の目を見た。
「要らないってこと？」
剛は即座にそう返した。また主語がなかった。
「・・・」
『要らない』。ここまで言ったのだからそれも言えば良いものの、躊躇ってしまった。頭で思うのと実際口に出して言うのでは、重みが違った。
「お前さ・・・そんなこと考えてたわけ」
すると、剛は呆れたような、興味が無いような、なんとも言えない声で言った。
「・・・昨日、長野くんがさ。仕事終わったあと俺のとこ来て、『健ってどうなの？』って聞いてきたんだよ」
「え？」
目のぎりぎり上まで下げてニット帽を被る剛は、グループイチの人気を誇る。でもそれは、何となく分かる。剛はみんなと違うから。人とは違うなにかを持ってる。
「お前、もうグループ組んで数年も経つのに、長野くんからどんなやつなんだろうって思われてんだよ」
「だって・・・」
俺はなんと答えたら良いのか分からず、じっと剛の目を見た。
Jrの頃、喧嘩して、妬いて、それでも好きだった、変な目。
「でも、剛、お前だってそう思うだろ。俺だけみたいに言うなよ。お前だってそう思ってるはずじゃん。そうだろ。そーだっていえよ」
「そーだよ」
剛は少しも動かなかった。まばたきだけを数回して、無機質な声でそう言った。
「そんなの今に始まったことじゃねえし。ずっとそうだと思ってる」
「ほらなあ！？」
俺は大声をあげた。
古びたボーリング場に、甲高い俺の声が響き渡った。
「そうじゃん！なんで言わねえの。もう嫌だって。俺たちだけでやりたいって。V6やめてえって一度でも言ったかお前？」
「ゆった」
俺は驚いて言葉に詰まった。
剛はもう一度、「ゆったよ」と言った。冷たい声だった。
「だ、誰に・・・」
「長野くん」
剛はソファーの上で体勢を変えた。
「長野くんだったら怒られないと思ったけど怒られた」
「・・・」
「ほんとにやめたいの？って聞くから、うんって言って。でもそんなの嘘じゃん。やめられるなんて思ってないじゃん。でも若いから、やめたいって言うしかねえんだよ」
剛はペラペラの鞄を肩に掛け、立ち上がる。俺の背中をトンと叩いた。
「俺はカミセンだけでいいと思ってるよ。上がたまに足引っ張ってんのだって分かってる。でもやめたりしねえ。今んとこは、やめねえよ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 113人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
tana - 数年前、ド新規の時にこの作品を見つけ、それから今まで定期的に何度も読みに来ているほど好きな作品です。穏やかな気持ちで読める作品ではないのですが、美しくて胸が締め付けられます。 (2021年12月19日 23時) (
レス) id: 552449ccaa (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - なるちゃんさん» ありがとうございます。私もコンサートにお邪魔したのですが、健くんの最後の投げキッスにやられました...。よかったら新作も見てくださいね！ (2017年11月24日 2時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - 泣きながら読み終えました。フィクションだとわかっているのに現実といろいろリンクして感動しました！それにしても健ちゃんはホント儚く美しい。onesコン行きましたが健ちゃん肌ツルツルだったよ！ (2017年11月23日 8時) (レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - オレンジさん» ありがとうございます。健くんのあの危うさは何なんでしょうね！とても嬉しいです。本当にありがとうございました！ (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます！健くんのV6への向き合い方を小説で表現出来ていれば良いなと思います。嬉しいお言葉、毎回ありがとうございます！励みです。 (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まお | 作成日時：2017年10月17日 7時
