おまけ ページ39
＊
「健、どこ行くの」
顔をこわばらせたまま、長野は立ち上がった健に向かってそう聞いた。
健はひとしきり笑い終えたところだった。手には髭剃りを持っている。
「シャワー浴びる。なんか、疲れちゃった」
「・・・そう。待ってるよ」
「うん」
健はこくりと頷くと、先ほど剛・井ノ原・岡田の出て行った楽屋の扉をくぐり、TBSのシャワー室へ向かった。
俺の心臓はまだ跳ね上がっている。
生まれて初めて人を殴った。悔しそうにこちらを見て、何も知らない口で叫ぶ健の顔が、脳にこびりついている。
「・・・坂本くん」
長野が俺の名を呼んだ。
「健・・・大丈夫かな」
「うん・・・」
俺は察しがついていた。
健がV6のことをどう思っているのか。俺たちのことをどう考えているのか。
「健はよく考えてるよ。まだ二十歳そこそこで、V6のこと、将来のこと、ホントによく考えてる。偉いよ」
「でも・・・」
長野は下がり眉で反論した。言葉は続かないが、長野の気持ちはよく分かった。
「うん。足りないところはまだあるから、それはうちらが教えないと将来あいつが困るよな。たぶん、時間はかかるけど・・・剛と一緒で」
「・・・そうだよね。中学生の時にデビューして、それからずっと仕事ばっかりだったもんね。あの子らは特別なんだよね。他とは違う、特別な環境で育ってきたんだよね」
「そう。そりゃあ、こうなるよな。なんにも分かってなかった。俺たちが悪かった」
長野は深く頷いた。俺たち二人はこの6人の中でも離れて歳上なので、皆のことを分かってやらなきゃならない立場にある。確かにまだ下三人は子どもで、任せられない仕事も多々ある。けれどこのやり方でずっと接していれば、いつかこうなることは予測できたはずだった。
「前に言ったじゃない、剛が、辞めたいって言ってきたこと」
長野は指を組みながら言う。
「俺もその時怒ったよ。初めて剛に怒った。剛が辞めればそりゃいいけど、他の五人はどうなる？って。剛が辞めて、V6が五人になって、それから俺たちはもっともっと売れていくと思う？って。違うよね。脱退っていう言葉は魔法の言葉で、一瞬で名前に傷がつくよね。印象が悪くなれば仕事が減って、そうして俺たちは消えてなくなっちゃうんだよって」
長野は俯いて呟くように言った。
「それを想像して、それでもいいから、五人を犠牲にしてでも辞めたいならどうぞって、そう言った」
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tana - 数年前、ド新規の時にこの作品を見つけ、それから今まで定期的に何度も読みに来ているほど好きな作品です。穏やかな気持ちで読める作品ではないのですが、美しくて胸が締め付けられます。 (2021年12月19日 23時) (
レス) id: 552449ccaa (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - なるちゃんさん» ありがとうございます。私もコンサートにお邪魔したのですが、健くんの最後の投げキッスにやられました...。よかったら新作も見てくださいね！ (2017年11月24日 2時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - 泣きながら読み終えました。フィクションだとわかっているのに現実といろいろリンクして感動しました！それにしても健ちゃんはホント儚く美しい。onesコン行きましたが健ちゃん肌ツルツルだったよ！ (2017年11月23日 8時) (レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - オレンジさん» ありがとうございます。健くんのあの危うさは何なんでしょうね！とても嬉しいです。本当にありがとうございました！ (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます！健くんのV6への向き合い方を小説で表現出来ていれば良いなと思います。嬉しいお言葉、毎回ありがとうございます！励みです。 (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まお | 作成日時：2017年10月17日 7時
