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＊
それから少し年月が経った。
それはとある春の日の出来事だった。
歌番組の収録中、マネージャーに母が入院している病院から連絡が入った。
母は去年の暮れから体調を崩し、膵臓がんを発病した。あれよあれよと病気は進行し、あっという間に10キロ痩せてしまうほどだった。
主治医は今夜が山だと言った。
「秀明」
「・・・兄貴」
収録後、俺はまっすぐ病院へ向かった。入り口では弟の秀明が俺を待っていた。仕事で忙しい俺に代わり、秀明は母の面倒をよく見てくれていた。
「様子どう？」
「今は薬で寝てる。起きると痛みで耐えられないみたいで、もうモルヒネを2回も入れたって」
「モルヒネ・・・」
「先生は、このまま薬で逝かせてあげるほうが苦しくないって・・・。とりあえず入って」
秀明は説明をしながら、母がいる病室の扉を開けた。
入るのに少しためらった。俺は意を決して、母親の眠るベッドへ向かった。
「・・・」
母親は最後に見舞いに来た時よりさらに痩せているように見えた。もう昔の明るく美人だった頃の面影はない。髪は白髪まみれで、頬は痩せこけ黄色に近い。
「・・・母さん、兄貴が来たよ。仕事終わったんだって」
秀明が、小さな声で母に話しかけた。もちろん返答はない。
母親は孤独に見えた。ベッドの上で複数の機械に繋がれ、動くこともままならない。見舞いに来る男など、いるはずもなかった。たった一人で毎日ずっと、ただ息をするだけに生きている。若い頃、毎日男と出かけていたあの華やかな母が別人のように感じた。
「・・・母さん、来たよ」
うまく声が出せなかった。
そっと母の手に触れると、かすかに動くのを感じた。
「母さん俺だよ。健だよ」
「・・・けん」
秀明が目を丸くした。母は目を開けずに、口をほんの少し動かして俺の名を呼んだ。
「けん・・・」
「そう、健だよ」
俺は母に覆いかぶさるようにして近づいた。
母は蚊の鳴くような声を出した。聞き取れず、俺は耳を母の口元にあてる。
「なに？母さん、もっかい・・・」
「・・・しん・・・ぶん・・・」
「新聞？新聞が欲しいの？」
俺は病室を見回した。机の上に、大手新聞社の日報が置いてある。俺は迷わず掴んで、母さんの胸に当てた。
「母さんほら、新聞だよ」
「さ・・・むい・・・でしょう・・・」
「え？」
あの公園が、蘇る。
「さん・・・のため・・・・ありがとう・・・」
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tana - 数年前、ド新規の時にこの作品を見つけ、それから今まで定期的に何度も読みに来ているほど好きな作品です。穏やかな気持ちで読める作品ではないのですが、美しくて胸が締め付けられます。 (2021年12月19日 23時) (
レス) id: 552449ccaa (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - なるちゃんさん» ありがとうございます。私もコンサートにお邪魔したのですが、健くんの最後の投げキッスにやられました...。よかったら新作も見てくださいね！ (2017年11月24日 2時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - 泣きながら読み終えました。フィクションだとわかっているのに現実といろいろリンクして感動しました！それにしても健ちゃんはホント儚く美しい。onesコン行きましたが健ちゃん肌ツルツルだったよ！ (2017年11月23日 8時) (レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - オレンジさん» ありがとうございます。健くんのあの危うさは何なんでしょうね！とても嬉しいです。本当にありがとうございました！ (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます！健くんのV6への向き合い方を小説で表現出来ていれば良いなと思います。嬉しいお言葉、毎回ありがとうございます！励みです。 (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まお | 作成日時：2017年10月17日 7時
