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「っ!」
長い時間、息をしていなかったような感覚に襲われて、俺はもがくように起き上がった。
ひどい頭痛と目眩がして、左腕で身体を支える。違和感を感じて目をやると、何本もの針が腕や手の甲に刺さっていて、すぐ上の天井からぶら下がる点滴へと繋がっていた。
辺りを見渡すと、左隣には大きな機械が何台か置いてあって、一定間隔で電子音を発している。遠くの方にテーブルとソファーが2つ置いてあり、長い方のソファーにはV6の現場マネージャーが寝転んで眠っていた。
そこでようやく、自分がどこかの病室にいることに気づいた。初めて入るぐらいの、豪華で大きな病室だった。
何もわからない。一体今が何日の何時で、自分がどうしてここにいるのか、仕事はどうなったのか。果たしてどこからが夢だったのか。果たしてあれは、夢だったのかーー。
「あ、ケンくん!」
31歳妻子持ちの若手マネージャー。いつも明るい笑顔で盛り上げてくれるこの人も、動き出した俺に気がつくと真っ青な顔で慌て出した。
「待ってね、今、お医者さん呼ぶから」
「うん」
素直に頷く俺に驚いたのか、マネージャーは一瞬目を丸くしたが、すぐにナースコールを押して病室を出て行った。
俺が寝ているベッドのすぐ横に、一人掛け用の椅子があった。その後ろに、坂本くんがいつも被っているキャップが落ちているのを見つけた。
「三宅さん、気分いかがですか?」
30代くらいに見える、健康的な男性医師が数名の看護師と一緒に現れた。その後ろに隠れ、現場マネージャーは心配そうに俺を見ていた。医師は白衣を着ていなかった。
「大丈夫です」
「どこか痛いところはありませんか?」
「ありません」
「ここはどうですか?」
頭の横を指でトントンと叩かれた。「少し痛いです」と言うと、「そうでしょうね、お薬入れてますから」と、優しく他人行儀に言われた。
「ねえ、分かんないんだけど・・・」
俺はマネージャーの顔を見て言った。マネージャーは渋い顔をすると、前にいる医師を見上げる。カジュアルなスーツ姿の医師は大きく頷き、優しい声で言った。
「今は少し混乱しているだけですから。もう少し経ったら、ちょっとずつ整理していけますよ」
「違う、だってホントに・・・」
味方が誰もいない気がして、声が震えた。マネージャーはソファーに置いてある鞄から携帯電話を取り出して、俺に聞いた。
「健くん、みんな呼ぶ?」
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tana - 数年前、ド新規の時にこの作品を見つけ、それから今まで定期的に何度も読みに来ているほど好きな作品です。穏やかな気持ちで読める作品ではないのですが、美しくて胸が締め付けられます。 (2021年12月19日 23時) (レス) id: 552449ccaa (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - なるちゃんさん» ありがとうございます。私もコンサートにお邪魔したのですが、健くんの最後の投げキッスにやられました...。よかったら新作も見てくださいね! (2017年11月24日 2時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - 泣きながら読み終えました。フィクションだとわかっているのに現実といろいろリンクして感動しました!それにしても健ちゃんはホント儚く美しい。onesコン行きましたが健ちゃん肌ツルツルだったよ! (2017年11月23日 8時) (レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - オレンジさん» ありがとうございます。健くんのあの危うさは何なんでしょうね!とても嬉しいです。本当にありがとうございました! (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます!健くんのV6への向き合い方を小説で表現出来ていれば良いなと思います。嬉しいお言葉、毎回ありがとうございます!励みです。 (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まお | 作成日時:2017年10月17日 7時