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食事を作らない母親。
家賃を払わない母親。
病院に置いてけぼりにする母親。
俺に興味がない母親。
それでも俺は、母が好きだった。
抱きしめられると、嬉しくて、ずっとこのままだったらいいのにと思った。
「健、健、学校は楽しい?好きな子はいるの?いるわよね、だってもう、中学1年生になるんだものね」
「楽しいよ。ねえお母さん、俺ずっと、ここにいるよ」
「健、お母さんね、もう男の人に頼らないって決めたの」
「え?」
「ずっと健の傍にいる。健と秀明と、三人で仲良く暮らそう」
俺は震える手で母親の腕を掴み、顔を上げて母親の目を見た。
童顔の母親は、身体も小さいので子供のように見えた。俺ににっこり笑い返して、そのままぎゅっと抱きしめた。
「今までごめんね。お母さんを許してね」
「・・・ううん。いいよ、全然、いいよ」
母親の香水の匂いが好きだった。
何の香水か未だにわからないけれど、この匂いを嗅ぐと安心した。何か大きくてあたたかいものに守られていると感じた。
「じゃあ健、あっちに行こう」
「ん?」
母はそう言うと、俺をよけて立ち上がった。
歩く先には、いつも母が寝る寝室があった。
「お母さん、もう寝るの?まだ七時だよ」
「寝ないのよ。違うことをするの」
「え?」
俺は腹がすいていた。「ごはんを食べよう」と言おうとすると、母はこちらを向いて立ち止まった。
「健、服脱いで、洗濯機に入れちゃいなさい」
「・・・なんで?」
おかしいと思った時には遅かった。
母はまっすぐこちらを見て、化粧っ気のない顔で、優しく微笑んでこう言った。
「健、精通はもう来た?」
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tana - 数年前、ド新規の時にこの作品を見つけ、それから今まで定期的に何度も読みに来ているほど好きな作品です。穏やかな気持ちで読める作品ではないのですが、美しくて胸が締め付けられます。 (2021年12月19日 23時) (レス) id: 552449ccaa (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - なるちゃんさん» ありがとうございます。私もコンサートにお邪魔したのですが、健くんの最後の投げキッスにやられました...。よかったら新作も見てくださいね! (2017年11月24日 2時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - 泣きながら読み終えました。フィクションだとわかっているのに現実といろいろリンクして感動しました!それにしても健ちゃんはホント儚く美しい。onesコン行きましたが健ちゃん肌ツルツルだったよ! (2017年11月23日 8時) (レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - オレンジさん» ありがとうございます。健くんのあの危うさは何なんでしょうね!とても嬉しいです。本当にありがとうございました! (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます!健くんのV6への向き合い方を小説で表現出来ていれば良いなと思います。嬉しいお言葉、毎回ありがとうございます!励みです。 (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まお | 作成日時:2017年10月17日 7時