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「ちがうこと?」




俺が聞くと、剛は窓の淵に右肘をつき、その手で口元を覆った。




「・・・わかんだろ」

「分かるけど・・・」

「やってやろうって思ってんだよ、俺たちのために。お前はいちいち、喧嘩売んな」





剛はそう言うと、一瞬俺の目を見た。剛はそのままぷいと窓の方を向いて、タクシーを降りるまで一言も話さなかった。




その日、夢を見た。


給食費を払えない母さんが、隣の家の同級生の親に金を借りに行く。玄関口で必死に頭を下げる母さんを、俺はじっと見ていた。これなら、19で子供を堕ろした娘をもつ母親の方がまだマシだ。いい大人が人様に金を貰うなんて、なんてみっともないんだろう。

俺はこの人の息子だと大きな声で言いたくなかった。それは夢が覚めても、変わらずそう思っている。






「・・・そっか」





俺は妙に腑に落ちた。

起きた。もう九時だ。
もうシャワーを浴びて、準備をしなくちゃ。





「・・・」





それでも、心に残る何かがあった。

母さんのことじゃない。





「・・・」





俺は、V6でいることが恥ずかしいんだ。

成績が悪いから。売れていないから。デビューして少ししか経っていない新人のアイドルなのに、バラエティでふざけてばっかりだから。アイドルらしさに欠けるから。

みんなと意見が合わないから。V6の進む道が、俺の望む道と違うから。大事なことはなんでも勝手に決めるから。みんな、俺をおいていくから。



これだ。

ずっと思っていたけど、言わないでおいたこと。言ったらもう二度と、元には戻れないと分かっていた。だから言わなかった。俺がこのメンバーを決めたってことと同じで、墓場まで持ってこうとしていた。


でも、気づいた。

これが俺の気持ちだ。V6に対する、今の正直な気持ち。やめるとか、やめないとかじゃない。剛も言っていたけど、そういうことじゃないんだ。そんなの無理だって分かってるから。








「・・・ねえみんな。みんなにずっと黙っていたことがあります」





歌番組の収録が終わり、楽屋で各々帰る準備を進めていたところに、俺は言い放った。

俺がそう言うと、みんなこちらを振り向いて、その顔をぐっと曇らせた。


長野くんは、驚いた顔もしなかった。





「それは墓場まで持っていこうと思ってたことなんだけど・・・それでも今日、言わなきゃって思ったんだ」





井ノ原くんだけは、じっと俺の目を見て逸らさなかった。

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tana - 数年前、ド新規の時にこの作品を見つけ、それから今まで定期的に何度も読みに来ているほど好きな作品です。穏やかな気持ちで読める作品ではないのですが、美しくて胸が締め付けられます。 (2021年12月19日 23時) (レス) id: 552449ccaa (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - なるちゃんさん» ありがとうございます。私もコンサートにお邪魔したのですが、健くんの最後の投げキッスにやられました...。よかったら新作も見てくださいね! (2017年11月24日 2時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - 泣きながら読み終えました。フィクションだとわかっているのに現実といろいろリンクして感動しました!それにしても健ちゃんはホント儚く美しい。onesコン行きましたが健ちゃん肌ツルツルだったよ! (2017年11月23日 8時) (レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - オレンジさん» ありがとうございます。健くんのあの危うさは何なんでしょうね!とても嬉しいです。本当にありがとうございました! (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます!健くんのV6への向き合い方を小説で表現出来ていれば良いなと思います。嬉しいお言葉、毎回ありがとうございます!励みです。 (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まお | 作成日時:2017年10月17日 7時

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