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それからはあんまり良く覚えてない。色んな人に連れられてでっかい病院に行って、点滴して、薬貰って、マネージャーにマンションまで送ってもらったのは覚えてる。その時、エントランスのポストの下で剛が座ってるのを見つけたのだった。
「・・・え、なんでいんの?」
点滴のせいで眠くて、頭もまだがんがんしてるんだけど、寒空の下で上着一枚で座り込む剛を見ると、驚いてその痛みもどこかへ消えてしまった。
剛はニット帽とマスクの間から相変わらずの目つきで俺を見て、ゆっくり立ち上がりながらガラガラの声で呟いた。
「・・・遅っせえよお前・・・」
剛は上着の袖をぎりぎりまで伸ばして、目を擦りながら歩いてくる。さっきまで見ていた腰パンブルージーンズの裾を引きずりながら、片手にはコンビニ袋を下げている。
「どこほっつき歩いてたんだよ」
剛は視線を俺の手元に落とした。俺が「なあ、ホントになにしてんの・・・」と聞くと、マスクのせいで表情を読ませない剛は、消え入りそうなくらい小さな声でこう言った。
「取材、巻いた」
ーー部屋に入れると、剛は大して興味も無さそうに一直線にキッチンへ向かった。左手に下げていたビニール袋を雑に置く音がする。俺はストーブに火をつけた。きんきんに冷えていた部屋に、微かな温もりが灯った。
「メシは?」
キッチンの方から、剛は声を張って聞いてきた。
子供のときと変わらない高い声。俺は素直に「まだ」と言うと、剛は「あ、作らねえから」と答えた。
「じゃあなんで聞いたんだよ」
「俺も腹減ったんだよ」
剛はそう言うと、何やらガサガサとコンビニ袋の中身を弄りながらこちらへやって来た。
「何それ?」
「どーせお前ん家何もねえだろって思って、買ってきてやった」
剛はにやりと笑ってこちらを見ると、リビングテーブルの上にコンビニ袋の中身を出し始めた。
「熱さまシートとぉ、ポカリとぉ、体温計とぉ」
「セブンに体温計なんかあんの?」
「見つけたんだよ。あとこれ、鼻水と頭痛の薬」
剛は俺がよく飲む市販のかぜ薬の瓶をゴトリと机に置いた。
「いや、薬はあるから・・・」
「捨てる気だろそれ」
剛は当たり前の顔をして言う。
「おめーJrの時から病院の薬だめじゃん」
「・・・そんなのよく覚えてるな」
「流石のセブンも、吐き気止めはないんだって」
「・・・ねえ、剛」
剛は片眉を上げて俺を見た。
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tana - 数年前、ド新規の時にこの作品を見つけ、それから今まで定期的に何度も読みに来ているほど好きな作品です。穏やかな気持ちで読める作品ではないのですが、美しくて胸が締め付けられます。 (2021年12月19日 23時) (レス) id: 552449ccaa (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - なるちゃんさん» ありがとうございます。私もコンサートにお邪魔したのですが、健くんの最後の投げキッスにやられました...。よかったら新作も見てくださいね! (2017年11月24日 2時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - 泣きながら読み終えました。フィクションだとわかっているのに現実といろいろリンクして感動しました!それにしても健ちゃんはホント儚く美しい。onesコン行きましたが健ちゃん肌ツルツルだったよ! (2017年11月23日 8時) (レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - オレンジさん» ありがとうございます。健くんのあの危うさは何なんでしょうね!とても嬉しいです。本当にありがとうございました! (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます!健くんのV6への向き合い方を小説で表現出来ていれば良いなと思います。嬉しいお言葉、毎回ありがとうございます!励みです。 (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まお | 作成日時:2017年10月17日 7時