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「は?」
俺は坂本くんの言葉が理解出来なかった。
坂本くんは手を少し離して、また俺の目に手を当てる。そこで俺は、坂本くんは俺の目を覆ってるんじゃなくて、俺のおデコに手を当てて熱を測ってるんだと気づいた。手が大きいから、どうしても俺の目に被るのだ。
「うそ」
長野くんが駆け寄ってきて、俺の首に手を当てる。その手があまりに冷たくて、俺は「冷った」とつい強めに抵抗した。長野くんは全く気にせず、「うわあ」と声を上げる。
「すごい熱」
「お前今すぐ帰った方がいいな」
坂本くんはそう言いながら、きょろきょろ廊下の方を見ている。たぶん、マネージャーを呼びたいのだろう。井ノ原くんもきょとんとした顔でこちらに寄ってきて、「健大丈夫?」と言っている。
「だから寝ちゃってたんだ」
「誰かマネージャー呼んでこいよ。まだギリギリ病院やってるよな?」
「健くん大丈夫?顔色は変わんないけど・・・」
「健風邪引いてたの?」
剛だけは何も言わずその様子を見ていた。遠くに座る剛は、まっすぐに俺を見ている。金色に光る長い髪の毛とヤンキーみたいに下げて履いてるブルージーンズが、やけに目に入った。
「・・・ちょっと待って。俺、帰るのはいいけど、仕事どーすんの。まだ取材何本か残ってるよね」
「それをマネージャーに聞くんだよ。帰って平気なやつか」
坂本くんが何気なく言ったその一言が、俺の心に重くのしかかった。
みんなのがやがやとした声が遠くなる。頭が痛い。がんがん痛むその脳の中で、坂本くんの声が反射する。『帰って平気なやつか?』帰って平気なやつ?帰って平気な仕事ってなに?
急に吐き気がした。ほらまた、子ども扱いしてる。健がいなくても、大丈夫だよ。あとは簡単な仕事しかないから、ゆっくり休んで。なにそれ、なにそれ。ねえ何それ?
仕事って何?
そんなふうにやるものなの?
責任を負わせてくれないのはなんでなの?
子供だから?まだ19歳だから?だからなんにもやっちゃいけないの?
「意味わかんない・・・」
「え?」
長野くんが耳を傾けて俺にわざとらしく近づいた。
その瞬間、頭の中が一回転した。ジェットコースターに乗った後のような、気持ちの悪い浮遊感に激しく襲われた。吐く。
俺は立っていられなくなって、ついにしゃがみ込んだ。
するといつの間にか近くにいた剛が、俺の肩をぎゅっと抱いた。
「オラ、さっさと行くぞ」
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tana - 数年前、ド新規の時にこの作品を見つけ、それから今まで定期的に何度も読みに来ているほど好きな作品です。穏やかな気持ちで読める作品ではないのですが、美しくて胸が締め付けられます。 (2021年12月19日 23時) (レス) id: 552449ccaa (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - なるちゃんさん» ありがとうございます。私もコンサートにお邪魔したのですが、健くんの最後の投げキッスにやられました...。よかったら新作も見てくださいね! (2017年11月24日 2時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - 泣きながら読み終えました。フィクションだとわかっているのに現実といろいろリンクして感動しました!それにしても健ちゃんはホント儚く美しい。onesコン行きましたが健ちゃん肌ツルツルだったよ! (2017年11月23日 8時) (レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - オレンジさん» ありがとうございます。健くんのあの危うさは何なんでしょうね!とても嬉しいです。本当にありがとうございました! (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
M a o(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます!健くんのV6への向き合い方を小説で表現出来ていれば良いなと思います。嬉しいお言葉、毎回ありがとうございます!励みです。 (2017年11月17日 8時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まお | 作成日時:2017年10月17日 7時