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剛はとっさに健に覆いかぶさり、ラウンジの長机の下に隠れた。物がぶつかり合いガチャガチャという音が鳴り響く。人々の恐怖に慄く叫び声がラウンジにこだました。剛は縦揺れに身を寄せながら、目をうっすら開けて井ノ原を探す。
その時、シェルターの扉が天井からごとりと落ちてきた。上から砂や草木、瓦礫や人がばがばと降ってきて、突風がシェルター内を襲う。
「ごお〜!」
「泣くな!」
健が悲痛の声で泣き叫んでいる。突風で人々が飛ばされ、叫び声と呻き声が交差する。剛は右手でシェルターの壁を押さえ、左腕と身体で健の上に覆いかぶさったまま、必死で身体を丸めた。
どれだけ待っても、風は止まなかった。ビュウビュウという物凄い音が耳を裂き、鼻にはとんでもない異臭が突き刺さった。目を開けると砂埃やゴミが入るため剛はそれ以上井ノ原を探すことは出来なかった。
長野がしきりに戦争が嫌だと言っていた理由が分かった。剛は震える健の身体を全力で抱きしめた。
段々と風が止み、人々の声もしなくなり、辺りが音ひとつない静寂に包まれる。剛はゆっくり目を開けた。口や耳の中まで砂まみれで、気持ちが悪かった。
シェルターは変わり果てた姿だった。文明の利器であんなに過ごしやすそうだった内装が、跡形もなく消えていた。灰色と茶色のよくわからない物体がただ重なり合い、砂風がびゅうびゅうと吹き荒れている。
剛は無言で健から離れ、長机から身を乗り出した。ふと横を見ると、お腹からパイプが飛び出している知らない人が、立ったまま死んでいた。
なんの音もしない。誰の気配もない。一瞬で世界が消えた。
「ごお」
「まだ来んな。そこにいろ」
「いのはらくん・・・」
「今探してくる」
「俺も行く」
健はがくがくの脚で立ち上がり、剛の腕を取った。膝から血が出ている。剛もそこでようやく、右腕がひどく痛むことに気づいた。
「なに、これ・・・」
「核爆弾が落とされたんだ」
「東京に?なんで・・・」
「知らない。健、怪我は?」
「ないよ・・・剛は」
「俺は平気。歩ける?」
「うん」
二人は手を取って瓦礫の上を歩き出した。歩く度、ガラスの破片がじゃりじゃりと鳴る。剛はなるべく下を見ないように歩いた。
「井ノ原くーん!」
声が響かない。瓦礫の山に吸い込まれてしまう。
「井ノ原くーん!」
健が叫ぶ。汚れた顔に、涙が伝う。
「井ノ原くん!」
剛も叫ぶ。死臭がしてくる。
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Mao(プロフ) - ふきさん» そちらも被災地だったのですね;< お互いがんばりましょう;< (2018年9月13日 2時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
ふき(プロフ) - 更新で、嬉しく飛んできたのですが!日常生活は、大丈夫なのでしょうか?お見舞申し上げます。御家族、皆様お怪我ありませんか?こちらは関西なので土砂災害が酷い地域もありますが、どうぞ無理せずお過ごし下さい。 (2018年9月10日 1時) (レス) id: c8a9c28ea5 (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - 亮真さん» ありがとうございます!キムチは放送後すぐ書きました笑 書かなければならない気がして...笑 (2018年9月10日 1時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
亮真 - 一気に読ませていただきました!めちゃくちゃ面白いです。個人的に。健くんのキムチのシーンが忘れられません笑楽しく読ませていただきました!これからも頑張ってください! (2018年9月7日 22時) (レス) id: 01b213f1ed (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - ぴとで☆さん» 古い曲ですが名曲です!コメントありがとうございます。遅筆で申し訳ないです! (2018年8月10日 1時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mao | 作成日時:2018年8月3日 21時