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夫人は途中の駅で下車した。貧乏くさい香水の臭いが車内に残ってひどく不快だった。
偽名は昔仲の良かった下級生の名を頂戴した。やつも成績不振で放校になり、先月自害した。
「次はマンハッタン、マンハッタン」
車掌の声が放送された。普通車で六時間弱、ついにニューヨークに到着した。
トランクを手にした時、付けてきたはずのランプが無いことに気がついた。眠っていたときスられたか。もしかしたら、夫人かもしれない。
俺は人の多さにぎょっとした。ホームで待つ人々はみな綺麗な格好で、なぜか不機嫌な顔をしていた。汽車が止まると俺は他の乗客より少し遅れてホームに降り立った。数年ぶりに都会の匂いがした。
「まずはホテルを取らなくちゃ」
タイムズ・スクエアになるべく近いところが良かったが同時に高値だと思い、少し離れた郊外を目指して歩いた。
すると、腹が減っていることに気がついた。駅を出て少し歩くといい感じのバーがあったので、トランクを持ったまま店に入った。
「いらっしゃい。一人？」
「ああ。奥の席がいい」
「いいわ。ついてきて」
店員のブロンドの女の子は、小柄で愛想が良かった。俺はメニューを見つつ、女の子を見上げた。
「僕今さっきここに着いたんだ。ニューヨークで何を食べればいいかさっぱりわからないから、好きなものを持ってきてくれよ」
「あっはは、あなた、おかしなことを言うのね。どこから来たの？」
「ペンシルバニアの田舎だよ。ちょっとバカンスに」
「いいわね。じゃあうちで一番人気のメニューを持ってきてあげる」
「期待してるよ」
女の子は楽しそうに振り返りウィンクした。俺はニヒルに笑い返し、近くにあった新聞を開いた。ペンシーでもよく読んでいたニューヨーク・タイムズだった。
一週間くらいここにいよう。俺はそう決めた。それから家族に放校になったことを伝えに帰ろう。帰ってしまえば父も追い返すことなどできないはずだ。それから将来を決めるまで、恐らく家にいることができるだろう。
完璧だ。無駄のない効率的なスケジュール。そう思った時、女の子がハムエッグとコーヒーを運んできた。
「これがこの店一番のメニュー？」
「違うのよ、まだ11時になってないでしょ。モーニングのメニューしかやってないのよ」
女の子は目を細めて笑った。俺は「今日は何時までのシフト？」と、他の店員に聞こえないように耳打ちした。
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ふき(プロフ) - お疲れ様です。原作とは違う切なさが、翻訳調相まって楽しませて頂きました。写真も臨場感たっぷり。舞台化して欲しい！サカモトくんとゴウが出会う場面がとても好きです。シュガーちゃん達のお話も続きをお待ちしております。 (2018年4月29日 19時) (
レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます！トニは尊すぎて書くには覚悟と下準備がいるんですよね笑。参考にさせていただきます！ (2018年4月6日 23時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
ふき(プロフ) - 捕手には、なれずモラトリアムの闇に、沈んでいた日々。若さと折り合いが悪かった時代を思い出しました。若さって痛みを伴いますよね。楽しみに読ませて頂きます。厚かましいですが、トニにも是非いい物語を！個人的には「スモーク」如何でしょうか。 (2018年4月5日 19時) (レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まお | 作成日時：2018年4月4日 7時
