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こうして俺は、学校を放校になる前に自分から出ていくことを決意した。幸い荷物は殆どまとめてあった。
ツヨシに殴られ鼻血を出した夜、俺はトランクを持ってこっそり部屋を出た。このまま誰にも言わずに去ってしまおうと思ったのだ。しかし、ロビーのところで見知った人物に出くわしてしまう。
「あれ、ゴウじゃん」
トモヤ=アックリー。隣の部屋にすむ狂人だ。朝から晩までクラシック・ギターを弾き鳴らす迷惑な天才科学者として界隈では有名だった。
「久しぶり。冬休みはどうだった？」
「シッ。寮長に見つかったら元も子もないんだから黙っててよ。というかこんな早朝にここで何してるんだ」
「おれ？バーチャルネットをつくってる」
「バーチャルネット？」
トモヤはその大きな図体とは似つかない少年のような瞳で大きなコンピュータを見つめていた。最初に俺の存在を確認してからは、二度と俺の方を振り返ることは無かった。
「そう。すべてのコンピュータからこのバーチャルネットの世界にアクセスできるんだ。世界中の人がひとつのバーチャル空間に集まって、何かを話したり、考えたりできる。素晴らしいと思わない？そうしたら戦争なんかもなくなるはずなんだ。もうすぐ完成する。そしたらゴウもコンピュータを買ってよ」
「いや。俺は遠慮しとくよ」
「怖くなんかないよ。これはすごいことなんだ」
「それは分かるけど。あと怖くもないぜ」
「だったら何故躊躇するんだ？」
「それは俺にとってなんの意味ももたないからさ。君にとってそのバーチャルネットってやつが、君のすべてだったとしても」
トモヤはひどくあかるい声で「フーン」と相槌を打った。俺の言った意味を理解しているとは思えなかった。
「ゴウはどこへいくの？」
トモヤは薄暗く光る画面を見つめたまま言った。無数の数字が並ぶ画面が、トモヤの熱視線を反射している。
「出ていくんだ。追い出される前にね」
「ううん、ぼくが聞いてるのは"どこ"へ行くかってことだよ」
俺ははっとした。そう、行くあてなどないのだ。
「ニューヨーク」
咄嗟に口から出た。トモヤは「へえー」と間延びした声をあげた。
「お土産よろしくぅ」
「・・・もう帰ってなんかこないさ」
トモヤははっとしたように顔を上げた。立ち上がり、俺にぎゅっとハグをする。何日も風呂に入ってないない臭いがした。
「元気でね、ゴウ」
「・・・おまえもな」
吹雪はやんでいる。
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ふき(プロフ) - お疲れ様です。原作とは違う切なさが、翻訳調相まって楽しませて頂きました。写真も臨場感たっぷり。舞台化して欲しい！サカモトくんとゴウが出会う場面がとても好きです。シュガーちゃん達のお話も続きをお待ちしております。 (2018年4月29日 19時) (
レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます！トニは尊すぎて書くには覚悟と下準備がいるんですよね笑。参考にさせていただきます！ (2018年4月6日 23時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
ふき(プロフ) - 捕手には、なれずモラトリアムの闇に、沈んでいた日々。若さと折り合いが悪かった時代を思い出しました。若さって痛みを伴いますよね。楽しみに読ませて頂きます。厚かましいですが、トニにも是非いい物語を！個人的には「スモーク」如何でしょうか。 (2018年4月5日 19時) (レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まお | 作成日時：2018年4月4日 7時
