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「・・・ツバサくん、そんなところまで喋ったの。彼を脅したりでもしたんでしょ」
リエは淡々と言った。
「まさか。俺が君について彼に聞いたら、彼が俺のことを君のファンじゃないかって言ったんだ。まあそんなところだと適当に答えたら、彼、目の色を変えて俺を追い出そうとした。彼、すごく君のことを心配していたよ。事情を話したら謝ってくれて、君について少し教えてくれたんだ」
「そう・・・」
「彼を責めないでくれよ。俺が悪かったんだ」
リエは胸元から煙草を取り出し、病室のマッチで火をつけた。リエの口から、灰色の煙が溢れ出す。あの焼けた街の色と同じだった。
「・・・あたし母親失格なのよ」
リエは煙草を右手の人差し指と中指に挟んだまま、がくんと下を向いた。後れ毛が垂れる。
「あたし、もう一度演劇やりたいの。ステージに立って、もう一度スポットライトを浴びたいのよ。だから娘にこんな名前つけて・・・こんなの呪いよ・・・」
「・・・救ってほしいって、そういう意味だったんだね」
「そうよ。わかる？あたし、あなたに救ってほしかったの。この子を置いて、あたしをどこかに連れ去ってほしかったの。知らない男に無理やりおかされて、痛くて、みじめで、悔しくて、苦しくて、死にたかった。何回もキリストに祈ったけどだめだったの。そのうち神なんか存在しないって気づいた。でもね、改宗して、働き始めたらほんの少しずつ元気が出てきたの」
朝の光が病室に差している。リエのグリーンの瞳が綺麗に輝いている。
「ニューヨークって不思議な街よ。活気があって、人を勇気づけてくれるの。だからあたし、もう一度ステージに立とうと思った。立ち直れると思ったの。でも、その矢先にこの子がお腹にいるって分かって、あたしは全てを諦めなくちゃならなかった」
「・・・」
「悔しくて泣いたわ。おっきいお腹で、わんわん泣いた。演劇がやりたいの。すごくすごくやりたかった。でも叶わない。生まれてくるこの子のせいで。でも、泣いた後はひどい罪悪感に襲われた。あたしは何の罪もないこの子に、なんてひどいことを思ったんだって」
リエは真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。
「それで、一昨年アロハが生まれた。今は毎日毎日仕事に家事に育児に忙しくて、てんやわんやしてる。それでも、この子の笑顔を見ると、気持ちが安らぐの。この子はあたしの生き写しだから。でもね。それでもね。あたしは今でも、ステージに戻りたいの」
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ふき(プロフ) - お疲れ様です。原作とは違う切なさが、翻訳調相まって楽しませて頂きました。写真も臨場感たっぷり。舞台化して欲しい！サカモトくんとゴウが出会う場面がとても好きです。シュガーちゃん達のお話も続きをお待ちしております。 (2018年4月29日 19時) (
レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます！トニは尊すぎて書くには覚悟と下準備がいるんですよね笑。参考にさせていただきます！ (2018年4月6日 23時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
ふき(プロフ) - 捕手には、なれずモラトリアムの闇に、沈んでいた日々。若さと折り合いが悪かった時代を思い出しました。若さって痛みを伴いますよね。楽しみに読ませて頂きます。厚かましいですが、トニにも是非いい物語を！個人的には「スモーク」如何でしょうか。 (2018年4月5日 19時) (レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まお | 作成日時：2018年4月4日 7時
