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ミスター・ヒガシは飲みかけのコーヒーを片手に、大型のキルトが掛かった古いロッキングチェアーに腰掛けた。ヒガシの体重で椅子は悲鳴をあげるように軋んだ。
「冬休みはどうだった、ゴウ」
「はい、なんてことのない普通の休みでした。寮に留まって、いくつか追試を受けました」
「そうか」
俺は天井まで伸びる埃まみれの歴史書の山に目を奪われた。ワイン・レッドや深い草色の重厚な表紙が綺麗だった。
「期末試験の結果だけどね、ゴウ。悪いけど、お世辞にも良いとは言えないね。記述問題のところなんか、ほぼ白紙だったかな。勉強した形跡が見当たらなかった」
「はい、すみません」
「怒ってるんじゃないんだよ。ただ、こうも真正面から『勉強していません』というような解答だと、僕も成績の付けようがないんだ」
「はい」
「だから君に"F"をやった。悪く思わないでくれよ」
「もちろんです、ミスター・ヒガシ」
俺は精いっぱいの良い態度で接した。なにせあと4分でここを出なければ、アヤのパーティーに遅刻してしまう。一分一秒の無駄を省いて最も効率的に説教を受けたかった。
「それで、これは小耳に挟んだのだけれど、ゴウ、君はペンシーを放校になるのかい？」
「はあ、まあ、そのようですね」
「というのは？」
「実際のところはまだ分からないんです。ただ今学期五つ受けた授業のうち四つが落第というひどい結果で、それを聞いた誰もが僕は必ず放校になると言うので」
「成程。それで今日そんな改まった格好で僕のところを訪れたというわけだね」
「あ、いや、これは別に」
ヒガシは腕を伸ばして机の上の資料を取った。額に上げていた眼鏡を掛け直し、資料に目を落とした。
「ゴウ。君がペンシーを放校になったとしてもならなかったとしても、通う学校を変えるべきだと僕は思うがね」
「はい、ミスター・ヒガシ」
「君の学力はこのプレップスクールに届いていなかった。それだけの話だ。落第を四つも取る君が悪いんじゃないよ。学力に合った学校を選ばなかった君の選択が間違いだったんだ。僕の言っていることが分かるかい？ゴウ」
「はい、分かります」
「宜しい」
ミスター・ヒガシは優しい顔で笑うと、コーヒーを啜った。壁時計の秒針の音がカチコチと響く。
「あの」
「ん？」
「この後予定があるので失礼します」
ヒガシは突然「ははは」と声をあげて笑った。驚く俺に、「いいよ、楽しんできなさい」と低い声で呟くように言った。
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ふき(プロフ) - お疲れ様です。原作とは違う切なさが、翻訳調相まって楽しませて頂きました。写真も臨場感たっぷり。舞台化して欲しい！サカモトくんとゴウが出会う場面がとても好きです。シュガーちゃん達のお話も続きをお待ちしております。 (2018年4月29日 19時) (
レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます！トニは尊すぎて書くには覚悟と下準備がいるんですよね笑。参考にさせていただきます！ (2018年4月6日 23時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
ふき(プロフ) - 捕手には、なれずモラトリアムの闇に、沈んでいた日々。若さと折り合いが悪かった時代を思い出しました。若さって痛みを伴いますよね。楽しみに読ませて頂きます。厚かましいですが、トニにも是非いい物語を！個人的には「スモーク」如何でしょうか。 (2018年4月5日 19時) (レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まお | 作成日時：2018年4月4日 7時
