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「オカダのこと、頼んでもいいかな」
ナガノくんは長い睫毛を瞬かせた。
「いいよ。明日には、準備も整うと思うから」
「ありがとう」
ナガノくんは不揃いのカップにココアを入れて、ロッキングチェアに座る俺にひとつ手渡した。
「俺、もう二度と誰も失いたくないんだ」
「うん」
「俺の寿命をあげてオカダが生きられるなら、それでいいんだ」
「うん」
ナガノくんは優しく頷いていた。ココアを一口飲むと、懐かしい、もう戻れないあの記憶が蘇った。
「ねえナガノくんはさ、ずっと何百年も生きてきて、ずっと人間から虐げられてきたの？」
「うーん、ここ数十年はずっとそうだけど、昔は違ったよ。悪い魔女と良い魔女がいるって言われてる時期もあった」
「ナガノくんはどっちの魔女だった？」
「悪い魔女だった」
「じゃあ、今みたいに差別されてたの？」
「そうだね。その時もここに住んでた。この家は差別が酷い時期に隠れ住む場所なんだ」
「へえ、隠れ家なんだ」
「うん。それでその時僕を色々と助けてくれたのは、良い魔女だった君のお兄さんなんだよ」
兄のことに触れられ、心臓がどくんと跳ねる。俺の目の色が変わったのを見たナガノくんは、宥めるように背中をさすり、優しい声で言った。
「お兄さんのことも、やり残したことに入れてあげて。ケンもきっと彼に会いたいはずだよ」
「・・・ナガノくん、名前間違ってるぜ。俺はゴウだよ」
「違う、ケンさ。ケンは今そこにいる。ずっとゴウについてきて、ゴウのこと見守ってるんだよ」
ナガノくんは俺の座るロッキングチェアの右横を指差して、にっこり笑った。
「ゴウ、まずはどこへ行きたい？念じればどこへでも行けるように魔法をかけておいたから、君はもう何でも出来るよ」
「・・・ポートランド。親父に会う。会って殺す」
「分かった。頭の中で、強くポートランドをイメージして。出来れば詳しく、どの地域とか、どの家とか。僕のことを呼んだ時みたいに」
「・・・」
親父の顔を思い浮かべた。
実業家で、昔は成功したビジネスマンだった。工場をいくつも持ち、先の戦争で財産の全てを失うまでは、富豪のような生活をしていた。
親父は女を四度変えた。そしてその度子供をこさえた。俺は二番目に生まれた。ケンはその後、一年も経たずに別の女の腹から生まれ、親父はそっちの女をとった。
視界が真っ白になった。目を開けると、実家のアパートの扉の目の前に立っていた。
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ふき(プロフ) - お疲れ様です。原作とは違う切なさが、翻訳調相まって楽しませて頂きました。写真も臨場感たっぷり。舞台化して欲しい！サカモトくんとゴウが出会う場面がとても好きです。シュガーちゃん達のお話も続きをお待ちしております。 (2018年4月29日 19時) (
レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます！トニは尊すぎて書くには覚悟と下準備がいるんですよね笑。参考にさせていただきます！ (2018年4月6日 23時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
ふき(プロフ) - 捕手には、なれずモラトリアムの闇に、沈んでいた日々。若さと折り合いが悪かった時代を思い出しました。若さって痛みを伴いますよね。楽しみに読ませて頂きます。厚かましいですが、トニにも是非いい物語を！個人的には「スモーク」如何でしょうか。 (2018年4月5日 19時) (レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まお | 作成日時：2018年4月4日 7時
