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十一時をまわった頃、ブルー・アベニューのカフェへ行くと中は人でごった返していた。昼間のブロンドの女の子が、少し離れたバーカウンターに座りながら手を振っている。
「遅いじゃない」
「ちょっと観光していたら遅れたんだ。なにせ初めてニューヨークへ来たんだ、大目に見てくれよ」
「いいわ。フフッ、あなたって本当に面白いわね」
耳が張り裂けるほどの爆音で鳴り続けるダンス・ミュージック。若者たちは狂ったように踊っている。
俺はボーイを片手で呼び、テキーラのショットとモスコミュールを注文した。
「君は何を飲んでるの？」
「ピーチフィズ。最初はこういうのがいいの」
「こういうのって？」
「甘くて逆に悪酔いするお酒。ニューヨークではお酒は無理やり飲むものなのよ」
「きみ、いくつ？」
「十八。あなたは？」
「十七。これでもシニアだよ」
「あら、そんなに変わらないのね。もっと年下かと思ってた」
ブロンドの女の子は昼間のユニフォーム姿とはうって変わり、短いホットパンツに黒のスポーツブラといういでたちだった。ウェービーな髪は一つにまとめ、オレンジ色のゴムで縛っている。足元は黒い編み上げブーツで、カーキ色のフライト・ジャケットを片手に持っていた。
「君の名前は？」
「リエ。リエ=サリーよ。どっちもファーストネームみたいで変わってるでしょ」
「ああ、すごく良い響きだと思うよ。俺はゴウ=コールフィールド。スクールでは演劇をやってた」
「あら！あたしも学校でストレートプレイを齧ってたの。1年で辞めちゃったんだけど」
「辞めて正解だね。学校なんて何にも教えちゃくれないさ」
リエは頬杖を付き、ほんのり紅い顔で「へえー」と言った。グリーンの瞳がくるりとまわった。
「あなた、バカンスに来たんじゃないのね」
「分かる？そうだよ。実家に戻るまでの時間つぶしさ」
「ふうん。なんで辞めたの？」
「色々事情が混みあっててさ。一言で言うと、学校っていう俗物的な空間に心底うんざりしたってとこかな。金を死ぬほど使って作った名声ある教育機関でも、演劇のいろはすら教えられないんだ。ひどい授業だったよ、まったく」
「なんかわかるかも」
リエは氷で薄まったピーチフィズを飲みながら言った。伏せた金色の睫毛が、照明にあたって透けて見えた。
「まだ続けてる？」
「あたし？ううん、もう辞めたわ」
リエは意味ありげに呟いた。胸元の六芒星のタトゥーが、汗で少し濡れている。
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ふき(プロフ) - お疲れ様です。原作とは違う切なさが、翻訳調相まって楽しませて頂きました。写真も臨場感たっぷり。舞台化して欲しい！サカモトくんとゴウが出会う場面がとても好きです。シュガーちゃん達のお話も続きをお待ちしております。 (2018年4月29日 19時) (
レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - ふきさん» ありがとうございます！トニは尊すぎて書くには覚悟と下準備がいるんですよね笑。参考にさせていただきます！ (2018年4月6日 23時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
ふき(プロフ) - 捕手には、なれずモラトリアムの闇に、沈んでいた日々。若さと折り合いが悪かった時代を思い出しました。若さって痛みを伴いますよね。楽しみに読ませて頂きます。厚かましいですが、トニにも是非いい物語を！個人的には「スモーク」如何でしょうか。 (2018年4月5日 19時) (レス) id: ada8638135 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まお | 作成日時：2018年4月4日 7時
