歓送 ページ36
「俺はもうすぐ死ぬよ」
「いや、行かないで!私が許さない!」
不治の病。余命宣告。
あと半年持つかどうか、そう言われた日から、今日でちょうど半年。
これまで巡った国で内紛に巻き込まれたり、傷ついた兵士を何人も目の当たりにしたり、数多の死線をくぐってきた幸太郎は、誰よりもわかっていた。
自分には、もう時間が無い。
余命宣告を受けてすぐ、幸太郎は子ども達に全て話した。
残された時間で、置いていけるものは全て置いていく。
ホームの運営を始めとして、幸太郎はあらゆることを子ども達や、[parents]に教え込んだ。
自分がいなくなっても、子ども達が、ホームの皆が、生きていけるように。
アメリやシャロンは、余命という事実を受け入れられず塞ぎ込んだりもした。何とか持ち直したが、今改めて、その時が来ていることに反発している。
ルークやレベッカにしても、その気持ちは同じだった。
「…ルーク、アメリ、レベッカ、シャロン」
自分を抱きしめる小さな背中をそっと撫でて、子ども達に語りかける。
「お前達なら、大丈夫だ」
何よりも愛しい、我が子達。
「世界の理不尽を、知っている」
「社会の生き辛さを、感じている」
「人間の弱さを、分かっている」
「そして、何より…」
幸太郎の中で進行する病はその体を蝕み、今や薬も効かない痛みを伴っている。
「…他人に、笑顔と掌の温もりを、分け与えてやれる」
それでも、幸太郎は弱音を吐かなかった。涙を流さなかった。
常に目の届く位置に置かれた、1つの写真立て。飾られているのは、ジョンが贈った"家族写真"だ。
「だから、大丈夫だ。お前達は、俺の子どもだよ。俺の人生、これ以上に誇らしいことは無いなあ」
幸太郎は笑った。
それは子ども達が見てきた中で、一番綺麗な笑顔だった。
「…っ、今更何言ってんのよ」
「そうだよ。僕達、ずっと前からかなり優秀な子どもだと思うけど?」
だから子ども達も、同じように笑った。流れる涙は拭わない。幸太郎に生きていてほしいという気持ちも、蓋はしない。
「ルークとアメリの、言う通り。幸太郎、やっと気づいたの?」
でも、それでも、幸太郎が。自分達を闇の中から救ってくれた、この男がーー否、父親が。
「私達、大丈夫だよ。幸太郎の、子どもだから…だから、頑張るから、またいつか、会おうね」
どうか…安心して、旅立てるように。
明朝、鷹野幸太郎は静かに息を引き取った。
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神娜(プロフ) - とても面白いです!夢中になってずっーと、読んでます(笑)!!次の更新楽しみにしてます!続きが気になるので、時間があったらでいいので、待ってます!! (2020年7月10日 16時) (レス) id: aef303f40c (このIDを非表示/違反報告)
Liz(プロフ) - とても面白いです!一気読みしてしまいました!主ちゃんと新一がどうなるのか、組織はどうなるのか!続きが気になります!お時間空いたときで大丈夫なので、更新してくれたらとても嬉しいです!待ってます! (2020年6月14日 18時) (レス) id: 981ff12ec5 (このIDを非表示/違反報告)
萌奈 - とっても面白かったです!もう更新はしないのですか?ずっと待ってるので、時間が空いたらでいいので更新してくれたら嬉しいです!待ってますよ! (2020年3月29日 22時) (レス) id: 08309c157f (このIDを非表示/違反報告)
れい - うわー、作品一気読みしてしまいました、もう更新はしないのでしょうか…?待っているので時間に余裕があるときにでも更新してくれたら嬉しいです。待ってます!! (2019年5月3日 14時) (レス) id: 31d6edb3af (このIDを非表示/違反報告)
緑間大好きっ子(プロフ) - 原作沿いも見てみたい (2018年4月29日 10時) (レス) id: c36a14bd0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ナガレ@元kaka x他1人 | 作成日時:2017年2月20日 16時