願望 ページ39
僕には分からない。
どうせ負けるのに、頑張ることが。
フルセットで迎えた決勝。
千鳥山VS白鳥沢
取っては取られてを繰り返す試合。
ラリーが長く続く苦しい試合。
怪物すら苦しく思う試合。
怪物たちを苦しめる白鳥沢。
王者の足元にしがみつく怪物たち。
どちらにとっても苦しすぎる試合。
4セット目の最後。
必死にボールを追いかけ、壁にぶつかることも考えずに飛び込んで上げたボールはセッターの押し込み合いに負け、白鳥沢の得点になった。
あの時のナツメの顔を、僕はきっと忘れない。
バレーが好きだ、バレーが楽しい、もっと打たせてくれと、無邪気にはしゃぐナツメが、怒りを表すことなく、影がさした。
それでも最終セットには気持ちを切り替えていた。
人間そんなに器用じゃなくない？
一体何がそんなにナツメを強くしているの？
ナツメは今、記者に囲まれている。
いつも通り、淡々と答えていた。
少しは話せるかなと、少し近づく。
すると聞こえてくる。
『新星くんにとって、今の千鳥山バレー部はどんな存在ですか？』
｢今も昔も、かけがえのない、代わりのきかない、俺も含めて俺と一緒に、俺以上に本気で戦ってくれる仲間です。｣
ナツメが本気でバレーをやる理由がその言葉にあるのはわかった。けども僕が掴んだ姿は抽象的すぎてぼやけている。
｢蛍、｣
気付けば僕の隣にナツメがいた。
｢ナツメ、お疲れ様。｣
｢おう。ありがとな。｣
目を細めて口角を上げて、嬉しそうに微笑むナツメ。
本人は無自覚だろうけど、笑うことが少ないナツメ。
そんなナツメの笑顔は珍しいもの。
｢おめでと、全国。｣
｢おう、そうだな。全国に行けることがすごく嬉しい。｣
藤色の目が僕を見る。
｢俺はまだ今のチームで戦えるんだ。全部の試合を最後の1回なんだと思いながら、全力を出し尽くしてくる。｣
壁がある。
ナツメと一緒に行けるチームが羨ましい。
｢·····頑張ってね。｣
僕にはこれしか言えない。
僕は本気の出し方を知らない。
｢ナツメー！行くぞー！どこだー！｣
いつもナツメの隣にいる彼が探している。
応援も言えたから戻ろうとする。
それを阻止したのはナツメ。
僕の左手首を掴んでいた。
少しの身長差のせいでナツメの表情は見えない。
｢なぁ、蛍。｣
強い意志の籠った瞳がまた僕を見る。
｢·····見てろよ。｣
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肺の燻製(プロフ) - 703さん» 703様からのコメントに作者の私の心もしっかりと鷲掴みされてしまいました。コメントありがとうございます。ぜひこれからも楽しんでいただければ幸いです。 (3月17日 13時) (
レス) id: f1877497e8 (このIDを非表示/違反報告)
703(プロフ) - コメント失礼します作者様の巧みな文字の動きに毎回心を鷲掴みです！ワクワクが止まりません！新星くんがとってもカッコよくて安定感を持っていながら南くんや東くんなどのキャラもしっかりと作り込まれてい応援が止まりませんとくに最新話の2年生4人に痺れました！ (3月17日 2時) (レス) @page4 id: 122d3150cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：肺の燻製 | 作成日時：2024年3月16日 18時
