田中 ページ29
ある晴れた春の日。
昼は少し暖かくなってきたが、
夜にはまだ寒い冷たい風が肌を突き刺す。
田中は消えた。
忽然と。
まるでそこには最初から誰もいなかったように。
山のようにあったお見舞いの品も、マフラーも
そこには初めから何も無かったように。
書き置きもなく、寮の部屋の私物も何もかも。
田中ソラという人物が本当に居たのかと言うほど
何も残っていなかった。
「ーーーは?」
それを初めに発見したのは幸か不幸か五条である。
昨日まで、…昨日の夜までは、確かにそこに
目の前のベッドで寝ていたはず。
「……ソラ?」
ーーー
ーー
ー
あァ、こレハ、
ダれかノ、おハナし。
ーーー
肌を突き刺す冷気、右の目の調子が悪く見えたり見えなかったりする。
土地神との戦いで、無意識に目に呪力を込めたんだろう。
でももう、自分に出来ることはやりきった。
夏油先輩、硝子さん、七海さん、灰原さん
そして五条先輩。
前の時間軸で
ここまで正しい未来へと変えたんだ。
もう
もう
『…もうっ、、私はっ、無関係なんだっ、、…。』
田中はこの時間軸で初めて涙した。
報われた嬉しさ、離れる悲しさ、誰もそばにいない寂しさ
様々な感情が田中の中を駆け巡る。
田中は必死に前の時間軸の
彼らの平和ために、彼らの幸せのために。
『…あとは、自分らで未来を造っていくんすよ。』
涙を拭いた田中の目には
かつてないほど綺麗な朝日があった。
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作者名:肺の燻製 | 作成日時:2023年10月29日 21時