田中 ページ20
『…術式開示。』
誰もいない、深夜の医務室。
田中の声が空間に響く。
田中の前には分厚い一冊の本。
田中専用の呪具・
田中が物心ついた時からずっと共に生きてきた。
意志などは無い、生きる書物。
そこには様々な
田中の世界が広がる度に、その呪術書にも記されていく。
その物語を読むのが、田中の趣味でもある。
『どうしたんすか、扉も開けずになんて、先輩らしくないっすよ。』
その声により、扉を開け入るのは月光に照らされ星のように輝く銀髪。
そこから覗く彗星のような瞳。
｢…お前、よく気づいたな。｣
五条悟。
『先輩呪力見えてるっすよ。』
そんな先輩を笑って流す田中。
｢ん。｣
『あ、先輩が持ってたんすか、ありがとうございますっす！』
五条の手には、血の汚れが薄まったマフラー。
『…もしかしてっすけど、洗ってくれたんすか？？』
｢ん、けど全然、落ちなくて｣
俯き気味の五条の瞳に映ったのは、少し赤みがかった栗色の瞳が輝いている様子。
『ありがとうございますっす！！』
マフラーから漂う五条の香り。
それを首に巻き、嬉しそうに顔を埋める田中。
『五条先輩と同じ香りがするっす』
｢…嫌い？｣
『安心する香りっす！』
そしてまたしても青色のマフラーに顔を埋める。
五条は田中が巻いてるマフラーの端を持ち
｢お前は俺の、｣
『はいっす、五条先輩の後輩っす。』
｢…そう。お前は、……ソラは俺の。｣
言い含んだ先の言葉は、まだ伝えない。
｢…ソラは俺の唯一。｣
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作者名：肺の燻製 | 作成日時：2023年10月29日 21時
