田中 ページ18
鼻に通る薬品の匂い。
誰かがボールペンかなにかで文字を書く音。
目を開ければ知らない天井。
と、白いもやもやとそこに光るふたつの蒼。
「ソラっ!!」
『………先輩?』
おはよう田中。
ガバッと豪快に抱きつく五条。
奥で心配そうに近寄る硝子。
「急に勢いよくくっつくな五条。」
五条を引き剥がした硝子。
五条は少し拗ねた顔で
「…お前が、……ソラが戻らないって聞いて、遊んでた呪霊吹っ飛ばして、ソラの任務先に行ったらお前が倒れてた。
驚いた、……死んだかと思った。」
五条は俯き、前髪をぐしゃぐしゃと握りしめた。
『生きてるっす、五条先輩。』
寝たきりのまま、前髪を握りしめる五条の手に触れた。
その手に絆され、ゆっくり手を解いていく五条。
硝子も黙って田中を見つめる。
『後輩は、先輩を置いてどっか行かないっす。
先輩の後ろからずっと着いていくのが後輩っすよ、五条先輩、硝子さん。』
田中がいつものように、にかっとわらう。
五条が田中を抱えて医務室に来た時、少なからず焦った硝子。
出血の跡に溢れた制服、貧血に高熱。
硝子は田中がもう目を覚まさない可能性まで考えていた。
その不安が田中の笑顔によって薄れていく。
「…おかえり、ソラ。」
硝子は微笑みながら
「ソラ、お前ほんとに勝手に置いていくなよ。」
五条は不安そうに
『はいっす、先輩。』
そして田中は笑った。
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作者名:肺の燻製 | 作成日時:2023年10月29日 21時