泣かない女［黒］

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家においで、と言う俺の真剣なトーンに、断れなくなったのか、彼女は小さく頷いた。




それを見て、席を立って会計を済ます。




「あ、払いますよ、私の分。」




白い小さなショルダーバックから財布を取り出そうとする彼女の手を遮る。




『いや、俺の我儘に付き合ってもらってるから。』




そう言って、店の扉を開ける。




「ごちそうさまです。」




彼女は諦めたように鞄から手を離し、車に乗り込んだ。




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「なんか、目黒さんにはお世話になりっぱなしです。」




車を出発させると、Aが言う。




「こんなこと今まで無かったんですけど。」




そうなんだ、と返しつつ、どんな形であれ彼女にとって印象深い人間になれているという事実が、嬉しくて笑みを隠せない。




『音楽流すよ、好きな曲言って。』




さっきは沈黙が気まずそうだったから、音楽を流そうとスピーカーを操作する。




「あ、じゃあ目黒さんの曲が聴きたいです。」




『え？俺らの？』




急にそんなことを言われて、少しだけ焦る。




「はい。目黒さんの歌ってるところを番組で拝見しました。それで少しわかります。」




『へえ、そうなんだ。歌ってる俺は、どうだった？』




彼女が俺と言う存在を認識して、会っていない間も忘れないでいてくれたことが嬉しくて、胸が高鳴る。




「さすが、アイドルだなと思いました。」




当たり障りない返答に、少し落ち込む。




かっこいい、とか言って欲しかったけれど。




『そっか、』





［アイドル］な俺にとっては、その言葉だけでも充分褒め言葉だ。




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