参 ページ3
結構な降り方だ。こんな中で外に出ようとする気はまず起きなかった。
「なあ桐影、止むまでおってもええか？」
桐影は俺の問いかけにうんうんと首を縦に振る。
「今日はゆっくりして行き。いろいろあったんやし、帰る気にもなれへんやろ」
「......うん」
桐影はたまに、びっくりするほどに俺の心の中を正確に言い当てることがある。例えば、今だ。
俺は彼の微笑みに甘えることにして、今日のことは今日で忘れよう、そして明日からまた頑張ろう、と意気込んだ。
その夜。
集会所に、忍び装束を身にまとった忍者たちが現れ始める。西党の面々だ。
西党の忍び装束は、忍びだというのにやたらと色鮮やかだ。
朱色のじじい。桃色のろぼっと。若草色の巨漢。俺は明るい山吹色。
遠くからでも、仲間だと分かりやすいようにこのようなおちゃらけた色をしているらしい。
ちなみに、若草色の忍者がいちばんの新入りだ。
俺には未だによく理解できないが、とにかくそれが西党の伝統らしい。
「うちには、どうも華がないと思うんじゃ」
「は？」
輪になって腰を下ろした途端に桐影が言い始める。つい反応してしまったのは俺だ。
「華じゃ。華」
忍者に華なんかいらんわ、冗談は顔だけにしろ、と俺たちが口々に言うと、桐影はまた「違うんじゃ」と頭を抱えはじめた。
「うちにも、くのいちが欲しくてな......」
まあただ確かに、男ばかりで柔軟な考えが持てていないことには賛同できる。
そう思って何も口出しせずに桐影の話を聞いていたが、「欲を言えば、胸の大きな子がいいのう......」と顔をにやけはじめたところで、ろぼ影が無表情のまま「ホウゲキ シマス」と大砲のようになっている腕を光らせはじめたので、３人がかりで止めた。
桐影は「冗談じゃよ！」と言っていたが、果たしてどうだか。
そうこうしているうちに夜が明ける。夜が明けると全員で軽く酒を飲み、日が昇り町が目覚める前に全員帰路につく。
結局今日も忍者らしいことはなにもしていない。
それが平和ということなら、それでいいのだが。
俺は桐影に朝飯まで出してもらい、してもしきれないほどの感謝を伝えたあと、集会所をあとにした。
気づけば日はほとんど真上まで昇ってきている。真夏の正午の暑さは、汗が着物を濡らすほどに耐えかねるものとなった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：伊予森 | 作成日時：2018年8月16日 20時
