壁の穴から (ybin) 1

光の言い分 2 ページ39

〈光の言い分 2〉


やぶとの出会いは、それこそ物心つく前から。


隣の独り暮らしのおばあちゃんちに、よく遊びに来てる一つ年上の男の子。


うちの親がお隣と仲良くしてたから、自然と遊ぶようになった。



あの頃は幼稚園から帰ると、まず、塀越しに隣を覗いて、やぶが来てるかどうか確認して、いたら勝手に塀を乗り越えて遊びに行ってた。


やぶは、凄く大人っぽい子どもだったけど、俺と遊んでる時は結構おっちょこちょいだったりガキなとこも出てきて。




やぶが複雑な事情を抱えておばあちゃんちに預けられてるっていうのは、何となく周りの空気で分かった。


けど、だからこそ、やぶが嫌な事を忘れられるようにって、子どもながらに思ってた気がする。






俺が三年生の時に、やぶが一緒の小学校に通うようになった。

やぶのお母さんが亡くなったからだって後から聞いた。




でも、

俺は、毎日やぶといられるのが楽しくて、嬉しくて。


俺は、学校の勉強が得意ではなかったけど

「光、わかんなかったら無理すんなよ。困った時は俺が光の代わりに考えるから、光は光の得意な事やれよ。」


そう言ってくれた。








涼介が近所に引っ越してきたのは、その２年後。

……あの、大変な年。



涼介は、真っ白なおもちみたいなちっちゃい可愛い子だったけど、その可愛過ぎが仇になったのか、学校で「子ブタ」とか言われていじめられてた。


近所のよしみでやぶと2人で助けてやったら、そこから懐かれて今に至る。



やぶが涼介を凄い甘やかして可愛がるから、あんなにメソメソした子だったのにすっかり強気に育っちゃって。




…あー。


そう言えばその頃、俺、涼介に嫉妬、してたかも。


大好きなやぶ、とられたーって。





……わっかんねーなあ。





やぶとか、ゆうととかみたいに、相手にあんな事やこんな事したいとかは思わないけど、


確かに俺も、独占したいって思いはあるのかも。

…あったのかも。






今は、

涼介にも、やぶにも、とにかく幸せになってもらいたいんだ。


これまで辛い事があった分、人以上にたくさんたくさん幸せになって欲しいんだ。

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