〜誰がために〜 (×in)

36 Yabu 4/28,30 ページ36

side yb


今ここがどこなのか、どのくらいの時間こうしているのか、もうわからなくなる。


甘やかな口づけを幾度も幾度も繰り返して、

この数年の空白が嘘のように埋められていく。

…俺がお前に溺れていく。



息ができないくらいに、激しく求め合って更に唇だけでは足りなくて、

俺の手がお前の体を求めて触れる程に、理性は地にこぼれ落ちる。







マネからの電話が無ければ、俺はそのまま全てを求めていたのだろうか。


それとも、どこかでちゃんと自分を止めることが出来たのだろうか。






伊野尾はそのまま東京に戻っていった。

本当に、何かの仕事があったついでではなくて、俺の舞台を見るためだけに大阪まで来てくれていた。




落ち着いて考えれば、考えるほど、自分の行動があり得なさすぎて。


どこまで時間を戻してやり直せばいいのか、頭を抱えながら、考えても仕方のないことを真剣に考えたりして。


でも。


どこをどうやり直しても、結局こうなってしまったのかもしれない。


もう、俺は、自分を閉じ込めきれなくなっていた。






二日後、グループ全員の仕事。


どんな顔を合わせればいいのか分からなくて。



…伊野尾の到着が遅れていると聞いてほっとした。


雄也は既に来ている。

一緒ではないんだ、とわざわざ思う自分が本当に嫌で。




「薮くん」


…ゆうと。


「千秋楽、お疲れ様」

「おお、」

「ごめんね結局見に行けなかった」

「気にすんな。お前はおとといから始まったんだろ？差し入れ、何がいい？」

「ええー、見に来てくれんのー？」



ゆうとと話していても何だか気持ちが上滑りする。


必死で普段通りの自分を取り繕っていた。





「雨、結構凄いよー」

ドアの開く音と共に、緊張感のない声が楽屋に響いた。

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