〜誰がために〜 (×in)

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今日のロケの面子は、色々な意味で濃かった。

「薮くん、伊野尾くんをよろしくね」

雄也は、今の伊野尾との仲を隠そうともしない。

既成事実として、俺を牽制してくる。



雄也が俺と伊野尾の過去を知っていて、あえて釘を刺してきているのか、それはわからない。

伊野尾が雄也に何を伝えて、何を黙っているのか。

それもわからないけれど、もう、どちらでも、どうでもいいことだ。



恋人だった頃、わかった気になっていた伊野尾の何もかもが、今はもう、何も見えない。


ロケで、俺と二人で１つのクレープを食べてる時の伊野尾は、ちょうどいい塩梅のあざとさを計算している顔だった。

でも、交互に食べてる途中で、うっかり俺が伊野尾の手を握った時の驚いた顔は、何も考えてない、素のあいつだった。


俺は、人との距離感が少し近いらしいから、伊野尾の肩を抱くのも別に他意がある訳じゃない。

伊野尾もそれはよく知ってるはずなのに、何故か急に体を強ばらせた。

伊野尾の一挙一動が、俺の中にしまいこんだ想いを引きずり出そうとしていた。




いつの間にか始まって、いつの間にか終わった恋。

誰にも知られないように、そっと、そっと、俺は二人の恋を大事に育てていたつもりだった。

だけど、伊野尾は、ゆっくりと俺から離れていった。
それは、とても自然に。

何事もなかったように。



もう、戻らない時の流れのなかで、全てが淡々と、飄々と、すぎていく。

それは、伊野尾の姿と同じようで。

淡々と、飄々と。

それも計算で作られた姿なのか、それとも俺だけにそう見えているのか。



雄也は、今、伊野尾の何を見ているのか。

俺は、何を見落としていたのか。



何が見えていないのか。

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