〜誰がために〜 (×in)

29 Yabu 4/11 ページ29

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今年の桜は見頃が長かった。


公演会場の前によく映える桜の木があって、連日、その桜と一緒に会場の壁の大きな看板を撮った写真が、SNSを賑わせていた。



連日の舞台、ナマモノだからよい日も悪い日もある、なんて言い訳は通用しない。

お客様にとってはたった一度の舞台だと、その気持ちを持ち続けるには、それなりの気力が必要だった。




初日からずっと、綺麗に咲き続けてくれていた桜の花。


俺は別に花なんか愛でる趣味はないけれど、それでも、毎日、目にする景色を彩っているさくら色は、確かに俺の心を安らげてくれる気がした。

桜の花が、うわずっている俺の気持ちを一旦リセットして、次への気力を奮い立たせてくれていた。




１ヶ月に渡る公演。


メンバーに会う事がいつもに増して減った。


それぞれ、舞台や映画、ドラマ、バラエティーと個人の仕事を抱えて、メンバー全員で集まる仕事が少なくなっていた。





…当然、伊野尾に会うことはほとんど無かった。






もう、すっかり落ち着いていたはずなのに。

最近、伊野尾との過去を思い出すことが増えた。


今さら考えてもどうしようもないのに。




そして、今の伊野尾の事も。


スケジュールを確認して、今日は伊野尾休みなんだな、とか、誰とどこで何をするんだろう、とか。

他のメンバーのスケジュールと照らし合わせそうになる自分が、女々しくて嫌で堪らなかった。







舞台の日程も折り返しを過ぎた。

桜の木もさすがに緑の葉が目立つようになった。


事務所の後輩や先輩、それからメンバーもちらほら見に来てくれる。


そして。




「薮くん！！」

この日、終演後に満面の笑みで楽屋に入ってきたのは、




雄也だった。

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