〜誰がために〜 (×in)

19 Yabu ページ19

side yb


俺は、周りに流されやすい。

入所も、デビューも、俺の思いとは違うところで決まって、疑問を持ちながらも流れに逆らうことはなかった。


対して、伊野尾は、全て自分で決めて自分で道を切り開いてきた。

伊野尾は社長に直談判しに行ってデビューを勝ち取った。
大学進学も、周りの心配や反対を押しきって実現させた。

周りに相談することなく、自分の信じた道をただ突き進む伊野尾が眩しかった。

羨ましいとも思った。


見た目の儚げな印象とは真逆の、芯の通った強さに惹かれた。





あの日。

手を握って、目を合わせて、「好きだ」と言った。


いつも眠そうな目を見開いて、掠れた声で「なんで」と呟いた。

それから、伊野尾は泣いた。


ずっと、ずっと拗らせ続けた恋心は、一旦出口を見つけて吹き出してしまったら、もう止まらなかった。


伊野尾は、俺と違って流される男ではないから、伊野尾も俺を好きでいてくれたと信じている。







でも、


俺たちの恋は上手くいかないことばかりで。



俺は伊野尾を傷つける度に後悔して、

この恋は始めない方がよかったのではないか。

先の見えない苦しさに、そんなことまで思った。




伊野尾が俺から離れていくとき、「これまで、ごめん」と言った。


俺たちの総てが、その一言で無かったことになった。

俺は、伊野尾といられた時間が幸せだったはずなのに。

伊野尾はその総ての時間について「ごめん」と謝った。

伊野尾は、俺たちの恋の総てをを否定することで、終止符を打ったんだ。


そうじゃない。謝って欲しくない。

そう、言えば良かった。






俺は、後悔してばかりいる。

振り返ってばかりいる。





でも、伊野尾はきっと振り返らない。


伊野尾はもう、新しい恋と生きている。

20 *** 3/16→←18 Yabu

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す