なな ページ7
明らかに携帯のメッセージ通知音に敏感になっている。
やけに機械的な音が不自然に私の耳に入る度に反応してしまう。そしてその都度、藤田さんと目が合って苦笑いを浮かべあった。
(……私って結構執着するタイプだったのかも)
今まで生きてきて今日初めて知った事実だった。
もし彼に「もう一回会おう」と言われたら私、どうするんだろう。
ろくに話さずに別れてしまったから、会うだけならと思ってしまうかもしれない。
その状態で仕事に身が入るわけもなく、読んでいた資料も何度も同じところを繰り返して読んでしまう。
「Aちゃん、ちょっと休んどいで。それ私がやっとくから」
「すっ、すみません……」
挙句の果てに、それを見かねた藤田さんに気を遣わせてしまった。
そのまま勤務時間を終えて、トボトボと帰路に就く。
(……うーん、)
このままではだめだ、という確かなことだけが頭に浮かんでいた。
しかし、その「だめな状況」を打破する方法が思い浮かばない。
もう一度会って話すべきなんだろうか。向こうにもう好きな人が居るのであれば、そこで諦めがつくかもしれない。
・・でも、もしそれで諦めがつかなかったら。
考え込みながら階段を上る。
「……お疲れ様です」
「あっ、早川さん」
落ち着いた静かで低い声に、一気に思考が現実へと戻ってきた。
「お疲れ様です、どうしたんですか?」
早川さんは自分の家の前___つまり私の部屋の隣のドアの前に立っていた。
今帰ってきたばかりというよりは、誰かを待っていたようだ。
「これ、どうぞ」
「えっ?」
差し出されたのは紙袋で、中身は丁寧に包装された箱が入っている。
最近TVで紹介され、人気の出た和菓子屋の包装だった。
「これから、うるさくなると思うんで」
「うるさくなる?」
「この部屋、もう一人住むことになったんです」
なるほど、と頷いた。
「別にいいのに。これじゃ、私が頂いちゃったみたいですけど……」
「いいんです。貰ってください」
本当に律儀な人なんだな、と感心した。
「……じゃあ、頂いちゃいますね。ありがとうざございます!」
「・・はい。それじゃ」
どうやら待っていたのは私だったようで、早川さんは自分の部屋に入っていった。
___待たせてしまって申し訳ない。
Aも鍵を取り出し、自分の部屋に入る。
「もう一人……」
もしかして、早川さんの恋人なのだろうか。
418人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
naka(プロフ) - やぁでぅんさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます😭更新止まってて申し訳ないです、なるべく早く再開できるように頑張ります!! (7月28日 10時) (レス) id: 8570de63d3 (このIDを非表示/違反報告)
やぁでぅん - めっちゃ面白くてあっという間に見終わってしまいました!これからも無理のない程度に更新頑張って下さい!! (7月27日 1時) (レス) id: 92500eea4b (このIDを非表示/違反報告)
naka(プロフ) - ♡さん» ありがとうございますありがとうございます!更新頑張ります!! (2023年3月17日 1時) (レス) id: cc5739a1e2 (このIDを非表示/違反報告)
♡ - この小説めっちゃ好きなんです(:_;)更新助かります…! (2023年3月15日 6時) (レス) @page27 id: 61a9d4c254 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:naka | 作成日時:2022年12月18日 23時