ピアニッシモ5 【O/N】[ARS]

perfect exam（side O） ページ38

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国語は、長い文章の問題に 差し掛かるまで

数学は、最初からサッパリで

生物基礎と化学基礎は、計算問題に差し掛かるまで

世界史は、ちょこまかと適当に、覚えているところだけ


そうやって問題を解いたら、90分の試験時間を、いつも60分くらい、余らせる。


教室には自分ひとりしか居なくて、目の前に、あの、黒くて大きな先生が、立っている。

シャツの、肩のところがパツパツだ。もうひとまわり大きいのを着たら？と、誰も言ってあげないんだろうか。


「あと60分もあるぞ？しっかり考えなさい」


顔を上げたから、そう言われた。

あと60分、この訳の分からない文字の並びに、目を凝らしていないといけないのか。

足がむずむずする。絶望しそうになったので、そうっと目立たないように、廊下を見た。


「あ……」


保健室の先生が、こっそり…というふうに廊下側の窓から覗いている。

たすけてよ、という視線を送ってみたら、「が・ん・ば・れ」と、口の形だけで言われた。


「はい、よそ見しない」


がっ、と大きな手に頭を掴まれる。ぐりんと真正面を向かされた。

もう少しで、保健室の先生が、にこりと笑ってくれるところだったのに。


「…んん……」


机に座って、シャーペンを持って、足をぶらぶらさせずに、問題用紙と計算用紙と、マーク式の解答用紙だけを、視界に入れて

あと60分、こうしていないといけない。


廊下側の窓は開いているのに、中庭側の窓は締まってる。

代わりに、暖房の固い風が、ぬるぬると頭に当たる。


【お呼びじゃないケド】
【及んでないケド】
【及ばぬ風デモ】


申し訳ないけど、本当にお呼びじゃない。機械から出る風が、苦手だ。

だいたい、あんなに小さな箱なのに、どうやって、教室中を温かくさせる量の風が入ってるんだろう。


「……うー…」

「どうした…、集中しなさい…本番もこれくらい長いんだから…」

「まど…、窓開けてもいい？」

「今日は寒いだろう」

「お願い……」



我慢できなくて、先生の返事を待たずに、窓を開けた。

冷たく、ほんものの風が入ってくる。



「…は…ぁ……」


【ぴゅう〜】
【へたくそ〜】
【〜さむいようにするため〜〜】


「……うるさいよ…」


肺が痛くなるくらい、きゅうきゅうに空気を吸った。

弾みで咳が出て、それでやっと、頭がすっきりする。



「回復した」と、大きな先生に振り向いて言ったら、

「残り30分にしてやるから、がんばれ」と、困ったように、笑われた。

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