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首筋に貼られた絆創膏に触れながら、無表情で宙を見つめる彼女の目はほんの少しだけ腫れぼったい。
原因は多分、泣いていたからだと思うけど。
朝方一度目を覚ましたとき二度寝をしようとベッドに入った後、隣に横になったAは泣いていた。
声を上げて泣くわけではない。苦しそうに、辛そうに、嗚咽を漏らして泣いていた。
おそらくAは精神的に不安定な状態だ。
今までもこうしてひとりで泣いていたのかと思うと、小さな身体を震わせる姿を黙って見ていられなくて抱きしめてしまった。
特に抵抗はされず無反応だった様子を見るに、意識はほとんど眠りに落ちていたようだった。
嗚咽はおさまり、代わりに静かな寝息がゆっくりと繰り返されていて。
気づいたら俺も寝ていて、先程目を覚ませば案の定Aのことを抱きしめたままだった。
普段から抱き枕を抱きしめて寝ているのでいつもの癖なんだけど、なんかすごい勢いで逃げられたから少し心が傷ついた。
…けど、これは勝手に抱きしめていた俺に非があるのでちょっと反省してる。ちょっとだけ。
***
2人で朝食(と言ってもインスタントラーメンしか作れなかった)を食べ終えテレビを見ていると、時計を見たり俺を見たりと落ち着きのない様子のA。
どうしたのかと聞けば、ラグの上で体育座りをしていた身体をぎゅっと丸め込んだ。
「……私、そろそろ帰らないと」
「え、ごめん、もしかして時間やばかった?」
彼女の事情には触れない方がいいだろうと思って何も言わずに、聞かずに、勝手にのんびりと食事の準備をしたりしていた。
帰宅時間の確認はしておくべきだったな。
謝った俺に「違うの」と言ったAは、膝を抱え俯いたまま口を開く。
「一晩泊めてもらえただけですごく有難いことなのに…あんまり長く居たら迷惑だから」
彼女が口にした帰らないといけない理由を聞いて、なんだそんなことかと思った。
「迷惑だと思ってたら最初からうちにおいでなんて言ってないよ」
膝に顔を埋めていたAが目線を上げる。
くっきりと深いラインの入った二重瞼の目が、まっすぐ俺に向けられた。
「家に居たくないと思ったらいつでもおいで。俺なんかで良ければ、話も聞くし」
大きな黒い瞳が揺れていて、次第に涙でいっぱいになる。
彼女の傍に寄り頬をつたった涙を指で拭えば、また一粒、二粒と
「少しだけ、私の話…聞いてくれる…?」
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作者名:naguno | 作成日時:2020年10月14日 20時