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午前10時過ぎ。
目を覚ました私はカーテンの隙間から差し込む明るい光に目を細める。
ちょっと寝すぎたかも。
身体を起こそうとするけど思うように動けなくて、原因は後ろから回されたテヒョンの腕のせいだと気づく。
すぐ近くから聞こえる寝息、背中に感じる体温。
ぴったりと密着しているのに不思議と嫌ではなくて、お腹に回されている腕の程よい重みも心地良く思えた。
全くの他人で、全然知らない人。20歳、大学生、たったそれしか分からない相手なのに、なぜか安心感を覚えている。
「……テヒョン、」
彼の腕に少しだけ触れて、名前を呼ぶ。
もう朝というには遅い時間。そろそろ起きないとお昼になってしまう。
何度か名前を呼ぶけど反応はなくて、起こすのは諦めてとりあえず布団から出ようと彼の腕を持ち上げて身体を起こした。
しかしベッドから降りることは叶わず突然力の強くなった腕に捕まる。
再び彼の腕の中に戻ってしまった。
「テヒョン…?起きてるなら離してほしい…」
「……ん」
ぎゅう、と力を強めるテヒョン。
私のこと抱き枕か何かと勘違いしているのでは。
「…なんか…いい匂いする」
もぞもぞと身
そのままベッドから降りて彼を見れば、いたずらっ子のような笑みを浮かべている。
「おはよ、A」
「……おはよ…」
何事も無かったように伸びをして「よく寝た〜」なんて言う彼を少し離れたところからじっとり見つめていれば、きょとんとした表情。
本当に無意識なのか、確信犯なのかは分からないけど。
無駄に可愛い顔できょとんとするから許してしまいそう。
「なんでそんな端っこに居るの。ほら、絆創膏替えるから来て」
自分の膝の上をぽんぽんと叩いていたテヒョンのことは見なかったことにして、彼の向かいに座る。
「血は止まってるけど一応」と言って絆創膏の交換を済ませてくれたテヒョンにお礼を言えば、にか、と笑顔を向けられた。
「………」
笑顔の似合う人だな。そう思って思わずその笑顔を見つめていた。
それと同時に思う。
私はいつから笑っていないっけ。
昔はもっと表情が豊かで、笑って過ごしていたはずで。
だけど私、どうやって笑っていたっけ。
どんなときに笑っていたっけ。
考えてみても分からなくて、昔の自分のことは思い出せそうに無かった。
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作者名:naguno | 作成日時:2020年10月14日 20時