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朝目を覚まして最初に考えるのは父のこと。
まだ、起きてはいないだろうか。
父が起きる前に、顔を洗って朝食を食べて、支度をしなくちゃ。
いつからか、父よりも随分と早く起きる習慣が身についていた。
今日も様々な場所に痛みを感じながら目を覚ました私は、急いで支度をしようと身体を起こして、しかし視界に映る見慣れない部屋に動きを止める。
私が寝ていたベッドの横、ラグの上に毛布を敷き身体を丸めて寝ている男の人を見て、自分がどこにいるのかを思い出した。
同時に、無意識のうちに感じていた父に対する恐怖、そして焦燥感が無くなっていって、身体から力が抜ける。
「…そうだ、私……」
あの時、あまりの恐怖に家を飛び出して必死に走って、お店に着いたらいつものお兄さん__テヒョンがいて。
とてもじゃないけど家に帰れる状況ではなかった私を見て、彼は「うちにおいで」と言って助けてくれた。
もちろんテヒョンとは赤の他人同士で、会話だって客と店員としての会話しかしたことはない。
信用できるような相手ではないのに。
それでも彼について来てしまった理由は、なんとなく分かっていた。
誰にも相談できずにひとりで抱え込んでいた私は、誰かが助けてくれるのを、手を差し伸べてくれるのを待っていたのかもしれない。
「………」
そう言えば私は、いつベッドで寝たんだっけ。
寝る準備をすると言って彼が部屋から出ていった後、私はもらった保冷剤で頬を冷やしていたはずで。それからの記憶がない。
もしかしたらそのままラグの上で寝てしまったかも。
そうだとしたらわざわざテヒョンがベッドに運んでくれたことになる。
彼の家なのだから、私はそのままラグの上で寝かせておいて自分がベッドを使えば良かったのに。
申し訳ない気持ちになりベッドから降りて、彼に布団をかけ直す。
時計の針は5時を指しているから起こすにはまだ早い。
そう思ったけど、布団をかけたときに身じろいだ彼はぱちりと目を開いた。
テヒョンの切れ長の大きな瞳と、視線が交わる。
しばらく黙って私を見ていた彼はゆっくり手を伸ばした。
その手は私の腫れた左頬に触れようとして、ピタリと止まる。「まだ、痛む?」と、少し掠れた低い声。
「……もうあんまり痛くないよ」
私の返事を聞くと、止まっていた手が動いて頬に触れた。
優しい触れ方は、少し擽ったい。
彼があんまり悲しく微笑むから、私は視線を逸らして俯いた。
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作者名:naguno | 作成日時:2020年10月14日 20時