ｰ４(TH)ｰ ページ4
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驚いた顔で俺を見た彼女は、「でも…」と戸惑ってぶかぶかのパーカーの袖をぎゅっと握りしめる。
店で何度も顔を合わせているとは言え、赤の他人、知らない男だ。
二つ返事が返ってくるとは思っていない。
「もちろん無理強いはしないよ。もし家に帰れない事情があるなら、と思って」
俺は3時には上がるから、それまでに考えておいて、と彼女に伝えて仕事に戻る。
そして1時間後。
仕事を終え帰る支度を済ませて彼女の元に行くと、心做しか緊張した面持ちで俺を待つ姿が見えた。
「決めた？」
こくりと頷いた彼女。
ついて行ってもいいですか、という小さな声が聞こえて、彼女の頭をぽんと撫でる。
「うん。一緒に帰ろっか」
＊＊＊
帰り道、お互い自己紹介をしたり話しながら歩いていたが、Aの口数は少ない。
今から得体の知れない人間の家に行くのだ。不安と緊張は少なからずあるだろう。
それでも自分の家に帰らず俺の家を選んだということは、それだけ彼女が追い詰められている状況なのだと思った。
どこかへ逃げたい。そう思ったのかもしれない。
先程からちらちらと視線を感じるのでAの方を見るがすぐに逸らされ、何度かそんなやり取りを繰り返していると彼女の方から話しかけてきた。
「…テヒョン、さん。……寒くない？」
俺のほんの少し後ろを歩くAは、パーカーを自分に貸しているせいで半袖Tシャツだけの俺のことを気にしていたようだ。
夜中に半袖Tシャツ、寒くないと言えば嘘になるけど、彼女の方を振り返って「大丈夫」とVサインを向ける。
ついでに「テヒョンでいいよ」と付け足しておいた。
歳上だとか歳下だとか、そう言うのは全然気にしないし。
俺と居るときだけでも、気を使わないで楽に過ごしてもらえるようになったらいいな、なんて思う。
…そうなるまでにはかなり長い道のりになるような気がするけど。
程なくして俺の住むマンションに到着し、恐る恐るといった様子で部屋に上がったAは隅の方にちょこんと正座した。
「A、床の上座ったら冷えるからこっちおいで」
ベッドの手前、ラグが敷かれた場所を指さして名前を呼べば、俺の顔とラグとを交互に見て移動する。
眠たそうな目をしていたのですぐに寝かせてあげたかったが、その前にやることがある。
俺は救急箱を持って彼女の傍に座った。
「…少し、怪我してるみたいだから。ちょっと見せて？」
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作者名：naguno | 作成日時：2020年10月14日 20時
