ー3(TH)ー ページ3
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「……ねむ」
口から出る大きな欠伸が止まらない。
時計を見て、まだ1時半かと溜め息をつく。
今日のシフトは3時まで。途中で寝そうだ。
暇だなぁとレジ台に肘をつき顎を乗せていると、入口のドアが開いたので慌てて姿勢を正す。
入って来たのは、あの子だった。
え、1時半だよ。さすがに駄目でしょ、危ないでしょ。
はじめはそう思ったが、ふらふらとレジの前に立った彼女は様子がおかしい。
見るからに部屋着姿で、マスクもつけていない。
手ぶらの彼女は、お店に来ているというのに財布も持っていなさそうだった。
顔色も悪く肩で息をしていて、乱れた髪の毛を見るに走ってきたのだと想像できる。
そして、赤く腫れた左頬もそうだが、俺が気になったのは彼女の首筋だ。
小さな赤い蚯蚓脹れのような跡がいくつかあって、血が滲んでいるその傷はおそらくまだ新しい。
以前から彼女が虐待を受けている可能性があると考えていた俺は、夜中に暴力を受けて逃げてきたんだと察した。
違ったとしても、今の彼女がハンバーガーを注文して食べるなど到底考えられない。
「…大丈夫?少し座ろうか」
呆然と立っていた彼女は、俺の声にびくっと反応するとやっと俺の存在に気がついたようだった。
奥の席に座らせて、ちょっと待っててねと声をかけスタッフルームに急いだ俺は、ロッカーから自分のパーカーを取る。
水を注いだコップも持って彼女の元に戻った。
途中すれ違ったバイト仲間に「体調悪いお客さんいたから様子見る」と伝え、レジは任せておく。
身体を小さくして待っていた、薄手の半袖姿の彼女。
やはり腕にも所々痣が見える。普段から長袖の理由は俺の予想通りだった。
「良かったらこれ使って。汚れてないから。…多分」
俺からパーカーを受け取った彼女は、小さな声で「ありがとう」とお礼を言うと袖を通した。
水も渡せば「お金…」と眉を下げたので水は無料だと伝えておく。
まだ確証はなくても、ここまでくれば虐待を受けている可能性はかなり高くなった。
きっとすぐに家に帰ることはできないだろう。
だからと言って、未成年であるこの子をどこかのホテルに泊めさせることはできない。泊まるには保護者の同意書が必要だ。
ここが24時間営業とは言えずっと居させることもできないし、俺は3時まで。
彼女を1人にさせれば、未成年なので補導されてしまう。
悩んだ末、俺は彼女に言った。
「うちにおいで」
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作者名:naguno | 作成日時:2020年10月14日 20時