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「お母さん、行ってきます」
母が亡くなって1年。
家には仏壇が置かれて、中央に笑顔の母の写真が飾られている。
もっと早くに用意したかったけど、父とのこともあったので遅くなってしまった。
今は毎朝、私は学校に行く前に、父は仕事に行く前に、必ず母に挨拶をしてから出かける習慣ができている。
習慣と言えば、ハンバーガーショップに行くことは今はもうなくなってしまったけど、週末にテヒョンの家に行く習慣は以前と変わらず続いていた。
***
土曜日の夜。お風呂上がり、部屋に戻るとソファーに腰掛けたテヒョンが目を瞑っていた。
私の前にお風呂に入っていたけど、髪の毛もまだ乾かしていない。
「テヒョン。起きて、風邪ひいちゃう」
声をかけるけど無反応で、テヒョンの隣に腰掛けた私はひとまず自分の髪の毛を乾かす。
ちら、と横を見るが、テヒョンは起きない。
…髪の毛、乾かしてあげようかな。
そんなことを思い立って、ソファーに立ち膝をして彼の髪の毛に触れる。
柔らかい触り心地の髪の毛は猫の毛みたいで、さらっと指の間を抜けていった。
「できた」
ふわふわに仕上がった髪の毛を満足気に見つめて、ドライヤーを片付けて再び彼の隣に座る。
普段私は部屋の隅に座るので、こうしてソファーに2人で座るのはなんだかんだで初めてかもしれない。
「起きてテヒョン。ここで寝ちゃだめ、ベッド行こ」
前に逆の立場でこんなやり取りをしたような気がする、と思いながら、綺麗な寝顔を見ていた。
そのとき、ぱち、とテヒョンが目を開ける。
急に大きな瞳がこちらを見たから驚いて身体を引いたけど、ソファーから降りる前にテヒョンに腰を抱き寄せられた。
ひえ、と間抜けな声が漏れた次の瞬間には、もうすぐ目の前に彼の顔があって。
テヒョンはしょっちゅうイタズラをしてくるから、またいつものおふざけだと思った。
「ちょっとテヒョン。近すぎるから」
口を開いてにかっと笑う普段の彼の反応を待っていたけど、まっすぐに私を見るその表情はこちらが緊張してしまうほど真剣なものだった。
だんだん顔が熱くなってくるのが分かって、恥ずかしくて顔を背ける。
耐えられない。彼みたいな綺麗な人にこんなに見つめられたら誰だって恥ずかしくなると思う。
「テ、テヒョン、もう___」
離して。そう言おうとした私の声は、言葉にならず呑み込まれる。
頬に、彼の唇が触れていたから。
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作者名:naguno | 作成日時:2020年10月14日 20時